綺羅星の恋人5ータイトル未定ー

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<7>  蓮はあの翌日も含めて丸二日、撮影現場に顔を出す事は無かった。  しかしその二日の間に、撮影現場では劇的な変化が起こっていた。    蓮をある場所に送って直ぐ、ヨアンが車で一旦自宅に戻ると朝のジョギング中の桐生蒼と遭遇した。 「ヨアン先生おはようございます」  背後からそう声掛けされ、ヨアンが振り向くとそこに蒼が立っていた。  ちなみに(お忘れかも知れないが)ヨアンは親葉の代理で、一年限定という約束で奥浜高校の養護教諭をしている。  柚子も音大卒の腕を買われて、現在音楽教諭として奥浜高校に勤務している。  ・・・随分採用基準が甘いとお感じだろうが、何分過疎の地域の教員である。  多少基準がザルでも、人材不足を補えるのなら問題ないらしい。 「ああ・・・君は、確か蓮の友達の桐生君・・だったね。おはよう、今日も君は元気だな」 「ええ、夏の選抜も初回で敗退してますから。来年の春こそは出来れば三回戦くらいまではどうにか粘れるようになりたくて」 「そうだったな、君は野球部だったか」  「はい。・・・そう言えば、蓮君お元気ですか」  急に180度話題を変えて来た蒼を不思議に思い、ヨアンがじっと蒼を見つめると・・・。  蒼は分かりやすく顔を赤らめ俯いてしまった。 (ああ、ジョギングの足をわざわざ止めてまで挨拶なんてと思ってはいたが、そういう事か・・・。我が息子ながら随分とモテているなエドゥアルド)  ヨアンは笑顔でテンプレ通りの応対をする。 「ああ、いつも通り元気だよ。ただ仕事が忙しいらしくてね、未だ登校する目途がつかないようだが」  しかし、そこでふと気づいた様で・・。 「ん?そう言えば君はジョギングでどこまで行くのかね?」 「ああ・・撮影現場の向こうが俺の実家のミカン園と畑なんです。今日はお袋から朝食用にみそ汁用の野菜を取って来いって言われてるんで、今から行こうかと」  腕時計で時間を確認すると・・現在時刻は早朝5:45分過ぎ。  ヨアンはポケットからメモとペンを取り出し、素早く何かをサラサラ書き出してページを引きちぎり、綺麗に折り畳んで蒼に手渡した。 「すまないが、君に言伝を頼みたい。監督は現在、撮影現場に泊まり込みで編集作業を行っているそうだ。その監督にこのメモを手渡して『蓮の父親が直に監督に話したい事がある』とそう伝えて欲しい。ああちなみに、他言は無用にしてくれ」  蒼はそのメモを受け取ると、こくんと頷いた。 「分かりました。ちゃんと届けます」  ヨアンと蒼は一旦それで別れた。    しかし話は何故かそれで終わらなかった。  蒼が帰り際、畑で収穫した野菜片手に撮影現場である廃校に顔を出した時の事。  近くに居たスタッフに監督の所在を確認し、ヨアンからの言伝を伝え、メモを直接手渡した。  呼ばれて出て来た葛城監督は随分くたびれており、目の下に真っ黒な隈を作ってはいたが受け答え自体は元気そのものだった。  その監督・・その時やたら蒼をジロジロ見つめ、肩やら腰周りやら執拗に触りまくった。 「え・・・ちょ、やめて下さい。何してんですか」  そう言いつつも蒼の反応はガチの拒絶では無い。  何故なら・・蓮が以前、葛城にベタベタ触りまくられていた時に 「監督はこうやって直接触って演者のコンディションとか確認してるんだよ。ハハッ、でもこれ、完全にセクハラだよね」  と言って笑っていた事を思い出したのだが・・蒼は芸能人では無い。 「あの俺、タレントとかじゃありませんけど」  とけん制の意味合いも込めて葛城にやんわり抗議した。  すると葛城は軽く目を剥いて 「ええっ!・・そうなのかい?こんなにいい顔と身体してんのに」  と言って、更に尻を揉んで来た。  流石にそれには寒気を感じた蒼が素早く飛びのきつつ、 「いやっ、あの、野球やってるんで!・・もういいっすか」  そのままダッシュで逃げる様に廃校横の坂を駆け下りて行ってしまった。  当の葛城は随分名残惜しそうに、 「ああ・・身体能力も申し分ないなぁ・・・イイな、彼」  その背をじっと見つめていた。    その日の昼。  蓮を心配した社長の大熊が男性を二人引き連れ、いつものように元気にやって来た。  その大熊が撮影所内に入るなり、その内の一人を見つけた葛城がダッシュで近寄って来て思い切り満面の笑顔でハグをした。 「おお~い、関口久しぶりじゃないかぁ! 元気してたかぁ?」 「ハハハ、先輩も相変わらずっスね。太鼓腹の方は少し増量した気がしますけど」 「うるせえよ! にしても見てるよ、エンジェル☆スピカ。やっぱ蓮君起用して正解だったな~あれは」 「ええ。先輩が『断然蓮君がイイ!』って猛プッシュしてくれたおかげです。有難い事に視聴率も高止まりのまま。蓮君人気で当分稼がせて貰えそうです。まさに蓮君様様ですよ」  そう、大熊に付いて来た内一人はエンジェル☆スピカの監督の関口 芳雄だった。  ちなみに彼は聞いての通り、大熊と葛城の大学時代の後輩にあたる。  彼等の出身校が映像関係に力を入れていた大学だった事もあり、業界内には彼等の先輩後輩はかなりいる。  関口も蓮についての情報を得るために、オフを利用してわざわざ奥浜名湖に足を運びやって来ていた。  大熊は自分の息子を探してきょろきょろしていた所を、葛城に声掛けされた。 「おお~良かったじゃないか。俺ら監督稼業は所詮、視聴率稼いでナンボだもんなぁ。そりゃそうと、おおい大熊!きらりなら今は代本の読み合わせ中だから探しても無駄だぞ。それよりお前、もう嫁さん放っておいて大丈夫なのか?」 「ええ、漸く安定期に入りましたんで。・・っつーか、自分の嫁さんに先ずハグするべきなんじゃないですか葛城さん?多忙な中、こんな田舎くんだり迄着替え届けに来てくれた愛妻に対して、そりゃ無いでしょ」  大熊がちらりと視線をやった先には、数年前にモデルから俳優に転向した人気イケメン俳優の蘆屋 麟(あしや りん)が笑顔で立っている。 「いいんですよ、僕は。祐希緒さんの元気そうな顔さえ見られれば」  その屈託のない笑顔をちらりと見て・・葛城は顔を赤らめつつ麟に近づき、消え入りそうな小声でぼそりと 「・・・こんな山奥までわざわざ悪かったな。水8ドラマも撮影佳境だろ?忙しいのに足を運ばせてすまない。・・・ありがとうな」  そう口ごもりつつ呟くと、 「やだなぁ、もう・・。ああん、相変わらずユッキ~可愛い!大好き!」  麟は目を輝かせ、心底嬉しそうに葛城を抱きしめた。  しかし・・・その姿はあまりにアンバランス過ぎて、どう見ても狸の大判ぬいぐるみを抱きしめるイケメン青年にしか見えない。  そう、葛城は身長169㎝しか無いのに対し、麟は元モデルという事もあり183㎝もあるのだ。  しかも彼は普通のモデルだった訳では無い。  パリコレなどのいわゆる”ランウェイ”を歩く超一流のスーパーモデルだったのだ。  ただでさえ身長差だけでもアンバランスなのに、葛城は小太りで麟はスラリと細身の細マッチョなのだ。  重ねて年齢差も25もある。  そして見た通り葛城はベータ、麟はオメガ。  そうで無くても、誰がどう見ても彼等を「監督と演者」「援助交際カップル」「親戚のおじさんと甥」・・・その辺以外のジャンルでは決して見ないだろう。  何より決定的なのが、やはり彼等のその容姿。  葛城はベータで顔もお世辞にもイケメンとは言い難い、のっぺりとした日本人特有の地味な顔である。  しかもボディはチビデブ”豆タンク”状態。  まあ年齢的にハゲてないだけマシという物だろう。  それとは真逆に麟はベンガル人とのハーフなので目元パッチリ、長く整った睫毛、鼻は高く眼の光彩はハーフらしく薄く金色がかっている。  そして何より、ほんのり褐色の肌にふわふわの茶色の髪、顔は小顔で手足がとにかく長い。  しかも信じがたい事ではあるが、話を聞く限りでは麟の方が葛城にぞっこんの様だ。 「ねえ、久しぶりだもの・・キスしたいな。していい?それともしてくれる?」  潤んだ瞳で麟が葛城におねだりすると・・。  葛城は顔を赤く染めつつ、ため息交じりに麟の頬にキスをした。  そのキスをしながら、耳元で小さく 「あんまり外で欲しがるなんてはしたないぞ。・・後でゆっくりしてやるから」  そう呟くと、麟はまたも葛城にしがみつく様に抱きついて頬ずりした。 「大好き」  何時しか周囲に出来た野次馬から、二人に向かって口笛や”冷やかし”ついでの激励が飛び交った。 「良いなぁ~俺もあんな事言われたい」 「理想のカップル」 「羨ましい・・」  その野次馬の背後で、父の来訪を聞きつけた輝が駆けつけがてら絶叫した。 「うわああぁ!葛城のおっさんがセクハラだけに飽き足らず、遂にイケメン襲いだしたァ~!」  その一言は野次馬たちにバカ受けした様で、周囲からどっと笑いが起こった。  しかしその一言、普通に考えれば失礼この上ない。  まして現在、輝は葛城から演者として「使って貰っている」立場なのだ。  だから輝の一言で付いてしまった笑いのその火を消そうと、父親の大熊が 「馬鹿野郎!あれは葛城さんの配偶者だ、お前も見た事あったろうが!」  そう躍起になって説明したのだが・・・。  当の輝は首を傾げつつ 「・・えー、俺聞いてねえ。こんな爽やか美人イケメン知らねえし」  と真っ向から全否定。 「馬鹿、お前が高校に上がる時に結婚式に呼ばれたろうが! あの結婚式、葛城さんと麟君のだったんだぞ」 「え?! あれ、マジだったんだ。俺はてっきり”ドッキリ企画”だとばっかり・・」  その一言に周囲から更にどっと笑いが沸き起こった。  テンパる輝の眼前には・・何時の間にか葛城が立っていた。  しかも、眉間に青筋を浮き立たせつつ半笑いで。 「・・悪かったな、ドッキリみたいな格差カップルで!」  怒りに声を震わせつつそう言い、輝の頬を遠慮なしに思い切りつねり上げた。 「ぎゃあああぁ~~~!」
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