綺羅星の恋人5ータイトル未定ー

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<2>  奥浜名湖での映画撮影はスタッフ・演者の差し替えなどかなり大規模な変更が多々見受けられた。  台本もキャストの入れ替えに伴い、撮影再開前に改訂版が関係者すべてに配り直された。  しかしそれも撮影を休止している期間に全て滞りなく行われていた為、撮影が再開してもその影響は軽微なものだった。  監督もスタッフも演者も多忙な為、全てのスケジュールがかなり急ピッチで行われていたのだが、現在トラブルなどは皆無、撮影自体はかなりスムーズに行われている。  但し、三つの事柄を除けば。  一つ目は・・・極秘撮影であった筈なのに、何故か日程やキャストの情報がマスコミやファンにダダ漏れになっていた事。  その所為で、過疎が進んださびれた田舎町に突如女子と野郎の大群が大挙してやって来た。  おめかしして念入りに化粧を施した”自称「女子」”含む彼女達のお目当ては、当然の様に大人気アイドルグループARRIVALのメンバー。  いい齢こいたオッサン含む野郎連中は無論、ほぼ全員が人気女性アイドルグループの追っかけ。  その総数ざっと1000人。  そんな大勢の”若者”が急に田舎町に押し寄せて来たのだ。  それも、過疎で碌にインフラの整備されていない山奥に。  当然彼ら彼女らは、自力で山奥の撮影現場に押し掛けて来ている。  まあそうなれば、その足は大抵車なのだが・・。  こんな僻地にタクシーを使える裕福な者ばかりでは無いのは言わずもがな、である。  仮に懐具合が良くて、タクシーを使用したのだとしよう。  行先は新幹線の停車駅である浜松駅から三ケ日まで。  取り敢えず財布から諭吉を一人召喚するのは必須になるだろう。  しかもそれは片道の話、である。  今時その金額なら格安航空券で隣国にだって運が良ければ行ける。  そんな大金をそんなにポンと安易に使える輩ばかりでないのは確かだろう。  そうなるとレンタカー若しくは自家用車、という事になる。  だが、考えてみて欲しい。  そもそも山間部の田舎に、彼等の車を全て置けるだけの駐車スペースは存在しない。  例え空き地や雑草生い茂る山間の土地がいくばくか存在したとしても、それは当然誰かの土地であり、第三者が勝手にどうこうしていい場所ではない。  しかし彼等はそんな道理などお構いなしだ。  狭く細い山道や田んぼのあぜ道、果ては明らかに畑と思しき場所にも彼等は当然の様に路駐してしまう。  そしてそれは現地の住民とのトラブルに発展する。  重ねて言えば宿も無い。  しかし前述の通り、彼等の一部には道理が存在しない輩が居る。  ”常識”を弁えない一部のファンが、さも当然の様に近隣の民家に「泊めてくれ」と突然やって来る。  これも先述した通り、過疎の田舎町である。  年寄りの暮らす田舎の一軒家に、知りもしない赤の他人の若者が無神経に「泊めて」と言って、ある日急に突撃して来るのだ。  時刻は撮影終了後だから当然夕暮れ時や夜半に差し掛かってから。  百歩譲ってこれが都会だったとしてもまあ、無神経極まりない。  まあ当然、断られる。  しかし困った事に、田舎の人間は無条件に都会に住んでいる若者を止めてくれると本気で信じる痛ヤバイ輩がうっかり居たりする・・。  更にそこで質の悪い輩は暴れたりする。  でまあ警察にお持ち帰り→そのごたごたを週刊誌がすっぱ抜き→さらに騒動が広まる→撮影現場が荒れる(今ココ)。  そのすっぱ抜きこそが、第二の問題なのである。  お陰で野次馬に混じったゴシップ記者が毎日校門前で映画関係者などを突撃取材して、スタッフや演者は非常に迷惑している状態だ。  重ねてネット配信を生業とする輩も多数やって来て、コッソリ撮影現場に侵入したりしており今月だけでも既に10組ほど警察にお持ち帰りされていた。  当初は悪意ある第三者からの嫌がらせも疑われたのだが・・。  その答えは意外な形でもたらされた。  撮影も中盤に差し掛かったある週末。  奥浜高校の蓮の同級生が、見学を兼ねて撮影現場に遊びにやって来たのだ。  その数、男女合わせて12人。  蓮は丁度休憩に入った所だったので、スタッフに呼ばれて廃校の玄関にやって来て、彼等との再会を喜ぶ事が出来た。 「わぁ・・皆久し振り!」 「いやっほう~、ひっさしぶりぃ!」 「ヤッホーって・・お前はナイツか!」 「古い!ツッコミが古すぎる!」 「うっわ蓮君久し振り~、何かもう・・メッチャ芸能人~って感じだね」 「キラキラオーラパねェ」 「そうかな~?僕はあんまり変わってないけど・・ってか、皆凄く化粧してない?洋服もメチャクチャお洒落だし。男子もおしゃれしてるし」  すると女子たちが顔を見合わせて満面の笑みで頷きながら、 「そりゃ・・ねえ?」 「イケメンに会いに来るのに化粧位しないと」 「とても恐れ多くて・・」 「アタシ志都呂のイオンで~」 「私達はメイワンとかザザシティとか」 「ねえ、ARRIVALのメンバー今日来てる?」  蓮は彼女等のお目当てをそこで漸く理解した。 「・・ああ~、全員じゃないけど来てる。でも今日はスケジュールキツイから僕がお願いしても連れて来れないかも」  一応彼女達を気遣いそう声掛けしたところ、今度は男子が食い気味に 「じゃあスミレちゃんは?さっちん(咲知)でもいいからさぁ~連れて来てくれよ~」 「ああゴメン・・・実はね、今日来てないんだ」  実は彼女等はスケジュールの都合で降板していて、現在はAXIAのメンバーが代役で入っていたのだが・・。  撮影情報は洩らせない為に、当然それは彼等に伝えられない。  だから蓮は言葉を選び、仕方なく「いない」と彼等に伝えたのだ。  しかし、それを聞いた瞬間の彼等の消沈の仕方はかなりの物だった。  露骨なまでにがっくりと肩を落とし、全身で悲しみを表現する。 「嘘だ・・・」 「マジかぁ・・・・」 「頑張っておしゃれして此処まで来たのに~詐欺だぁ~~~!」 「ハハッ、僕のせいじゃないけど・・ゴメンね」  彼等の酷いふて腐れ方に、すかさず女子が文句をつける。 「チョット、勝手にうちらに付いて来てそれは無いでしょ!」 「そもそも今日のウチらのメインは蓮君なんだからさ!」 「こらぁ~お前等ぁ、レンレンに失礼ってもんでしょ」 「だよ~」  蓮はやや苦笑いで、 「ありがとうみんな。ゴメンね、僕がもっと大きい事務所だったら色々融通利かせられて良かったんだけど」  とみんなに頭を下げた。 「やだなレンレン相変わらず腰低すぎ。それよかさぁ、見て~新しいサマンサの鞄! ウチら今日頑張っておしゃれして来たんだから!」 「うん、皆とっても可愛い。制服姿も可愛かったけど、今日は一段とおめかししてるよね」 「ヤダ、嬉しい事言ってくれるじゃん!」 「でも化粧までしなくても・・皆そのままでもナチュラルに可愛いじゃない?僕は普通で良いと思うけど・・」  そう答えたのだが・・。  かなり食い気味にそれは否定された。 「お世辞は嬉しいけどさ~」 「そりゃ、蓮君位素材が良ければじゃん!」 「うちらもこれで苦労してんだから~」 「そうなの?ゴメン、余計な事言ったね・・」 (ああヤバイ・・これは女子特有の「エンドレストーク」・・カオスの予感)  蓮は地雷回避のためにやんわり話を切り替えた。 「ところで皆、よく今日が撮影日だって分かったね」 「ああ! それ?」 「蒼ママがさぁ、情報発信してくれてるんだわ」 「お~い蒼! いい加減こっち来なよ~」  背後に振り返った女子が、彼等から10メートルほど離れた木陰に向かって手を振った。 「・・えっ?」  蓮には最初は何だか分からなかったのだが、目を凝らすとそこに隠れる様に立つ人影が・・。 「蒼、照れてないでもういい加減出て来なよ!」  そう女子が叫ぶと、木陰から長身の青年が頭を掻きつつのっそりと現れた。  その姿を見た蓮は、その方向に思い切り走り出した。  そして蒼に思い切り抱きついた。 「蒼、久しぶり! うわぁ・・元気そうで良かった・・」 「すまねえ、こいつらに誘われて・・つい」 「そんな! 嬉しいよすっごく」  心底嬉しそうに蓮に抱きつかれ、蒼は照れながら蓮の頭を軽く撫でた。  蓮はもっと話をしたくて、そのまま皆の所まで蒼を連れて来た。  すかさず男子が「ヒュ~」と口笛を吹き、二人を茶化しつつ囃し立てた。  しかし蓮はあっけらかんとした表情で笑っている。  それに対して耳まで真っ赤の蒼は、やや俯いたままで顔を上げようとはしない。  そのまま蓮は自然な流れで蒼と腕組みし、歩きながら明るく尋ねた。 「ねえ何で隠れてたの?」  その問いかけにいかにも気まずそうに、ぼそりと呟いた。 「・・・イヤ、照れ臭かったのと。それと・・お前に合わせる顔が無くてさ」 「ん?どう云う事?」  蓮は怪訝そうに蒼の顔を覗き込んだ。  蒼はなかなか渋っていて、答えを口にしようとはしない。  その渋る答えは、痺れを切らせた女子の口から語られた。 「レンレン、蒼っちのママの軽トラに乗せて貰った事あったっしょ? あん時から蒼ママが「応援」と称して撮影情報SNSにアップしてんの」 「ほら、蒼の家のミカン畑って廃校の先の方じゃん?」 「毎日通るから、情報なんかも詳しい訳よ」 「たまに遅刻したスタッフさんとか乗せて送ってあげたりすると、こっそり撮影状況とか教えてくれるらしくてさ」  蒼が頭をガシガシ掻き、蓮に思い切り頭を下げた。 「すまない、母さんには親父と再三「止めろ」って言ったんだけど聞かなくて。母さんミーハーだから、こういうイベント大好きなんだよな・・・」  蓮もさすがに返答に困ってしまった。 (本当は「気にしないで」って言ってあげたい所だけど・・。僕の一存でどうにもなる話じゃないし・・困ったな)  返答に窮する蓮を、背後から急に男が抱き竦めた。 「うわっ・・」 「どうしたんだ、え? 俺も話に混ぜてくれよ・・って言いたい所だが、監督が呼んでるぜ蓮」  それは・・ZEXELのメンバー、神崎大河。  その瞬間、彼の姿を視認した瞬間女子たちからは嬌声が、男子たちからは絶叫が上がった。 「あ、ああ・・すみません大河さん」 「いんやいいぜぇ~、何せ俺と蓮の仲だからな~」  蓮は及び腰なのだが、大河は露骨に身体を密着させつつ蓮の腰に手を回している。  その状態で半ば乱暴に引きはがす様に蒼の腕から蓮を引き離して、 「悪いがこれから俺達は撮影なんだわ。またな~」  そう一方的に告げてその場を離れていってしまった。  蓮は苦笑いで 「ごめんね、スケジュールが詰まってるから・・またね!」  彼等にそう告げて軽く手を振った。  急に蓮と引き離された蒼は大河の背を睨みつけていたが、他の連中は生で芸能人を見られた事に大興奮だ。 「すっげえ!ZEXELの大河だった!」 「超かっけえ~」 「めっちゃイケメンだった~」 「やっぱ、芸能人は生に限る」 「ちょっと~アンタどの目線から言ってんの?」 「何かさぁ、蓮君とイイ感じだったね」 「やっぱ? そう見えたよね~」  ・・・そう、三つ目の問題がこれだった。  カオルは自身の執行役員としての職権を利用して、大河を無理矢理撮影に”演者”として捩じ込んだのだ。  それも、蓮の「兄」役として。  しかも一人だけではない。  アレクサンドル・堂島も主人公に近い役を得てこの撮影現場に入っていた。  ・・そう、彼等はカオルの指示で輝を襲った張本人達なのだ。  そして・・・。  その時襲われた”被害者”である輝もまた、今回配役されてこの撮影現場に居た。  それを聞いた亜蘭は藍川に猛抗議したのだが、配役が覆る事は無かった。  
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