泥濘を征く

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 ただし、実際に出立する者は更に絞られる。  ちらと見ただけでは分からない山道に朔が足を踏み入れると、景色とともに地面が少し沈んだ。舗装もされない、あまり踏み固められない土は町中のそれと比べて柔らかい。進むにつれて一定の距離まで間隔を詰める木が眩しさを遮り、歩きやすくなった気候に朔は花を空にかざした。  木の葉が道に沿ってわずかな光の通りを作り、その粒を透かした白がわずかな風に身を揺らす。  綺麗だ。きらきらと揺れる景色に、朔は目を細めた。一兄(いちにい)も最後に、こんな景色を見たのだろうか。  ――いや、と朔はすぐに首を振って、足を踏み出した。  赤と黒で汚れた皮膚。擦り傷だらけの身体。多分に水を含んだ衣服がべたりと貼りついて、片方の足がおかしな方向に向いているのはすぐに分かった。  遊びも勉強もそれ以外も教えてくれる、優しくて頼れる近所のお兄さんだった一悟(いちご)は、まだ明けない内からこっそり探しに出た朔が見つけた時、河原に横たわっていた。  名前は呼んだと思う。朔がかけよると重たげに瞼が開き、唇が開いて揺れた。耳を凝らさないと拾えない。朔がその口元に寄ると、苦笑めいた息を含んで一悟は言った。 「羽がないと難しいね」  どういう意味か。朔がその顔を見た時には、一悟はこと切れていた。その左手には意識か無意識か、つぶれたシャラノキの花があった。
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