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7. 真実を求めて
「約束……証……」
燭台の灯りに照らされた部屋の中で、ルナはぼんやりと呟いた。
月明かりが眩しい森の中、そこで出逢った美しい青年。そして、この銀の指輪――
失われた欠片が一つ一つ集まり、形を成していく。
――何処で拾って来たの?
――木の上にいた男の人がくれたのよ。
――まぁ、ルナったら。きっと鳥が何処からか咥えてきて、落としてしまったのね。
この指輪は母に貰ったものだと思い込んでいた。しかし、そうではなかったことが徐々に思い出されていく。
――あらあら、また落として……まだ大きいから紐に通してあげるわね……。
まだ幼いルナには大きすぎてすぐに指から抜け落ちてしまい、その度にしゃがみ込んでは大事そうに拾っていた。それを見かねた母が、紐に通して首にかけてくれたのだ。
(どうして忘れてたの、こんな大事なこと……)
指輪をはめた手の震えを、もう片方の手で包み込む。
(これは、あの人がくれたもの……そして……)
木の上の青年……あれは間違いなく彼だわ――
そう言い切れるのは、記憶の中の青年とハディスの間には、十数年の時の隔たりがある筈なのに、その容姿は全くと言っていいほど変わっていないからだ。
思い出した瞬間、まるで前世の恋人を思い出したかのような衝撃が胸の内を駆け抜けたが、それと同時にルナの視線は自然と先程の紙片へと注がれる。
真実を知りたければ――
耳の奥で、カイの声がそう囁いた。それを合図に、疑問が次々と溢れてくる。
もしかして迎えに来たの? もしそうなら、どうして言ってくれないの?
私が忘れてたから、怒ってるの……?
胸の前できゅっと繊手を組み、ルナは覚悟を決めた。
テーブルの上に置かれた燭台の炎に、手紙をさっと焼べてしまう。昂然と顎を反らし、しっかりと前を見据えた。ドレスの裾が足に纏わりつくことも厭わずに、足早に窓辺へと駆け寄り、勢いよく窓を開け放つ。
夜明けにはまだ遠く、辺りは闇一色に染まっている。ただ、天上の月だけがひたすら眩しく、ハディスの生きる夜の世界をうっすらと浮かび上がらせている。
遙か眼下に巣食う闇は、両手を広げてルナが来るのを今か今かと待ち構えている。途中で救いの手が差し伸べられなければ、そのまま地の果てへ真っ逆さまだ。受け止めてくれると手紙にはあったが、出会ったばかりの彼を果たして信用して良いものかと訝る。
(でも、もし私を殺したいのなら……)
こんな迂遠な方法をとる必要はないのではないか。魔物である彼にとって、ルナを殺すことは簡単だ。顔を合わせた瞬間に殺されていても、おかしくはなかった。でも、彼はそうしなかった。
(迷ってなんかいられないわ――)
心に再び迷いが生じる前に、ルナは勇気を奮い立たせて夜の世界へと一気に旅立った――
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