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私は独りで呟きながら、車から降りて私の家に向かっていく林の後ろ姿を見ていた。私の乗っている高級外車は家の前にとめてある。私は林がチャイムを押すのを見ながら、自分の胸元にある、赤いリボンタイを外して、口元に持っていき、噛んだ。猿轡をされているように見えればいい。そう思って口にはさんで、きつく結んだ。次に、手を後ろ手で組む。そしたら、なんだか本当に誘拐された娘みたいになったので、いい。と思った。
目の前で、自宅の扉が開く。猫のエプロンを着けた父さんが扉を開ける。チャイムを押したのが私だと思っていたようで、林の姿を見たお父さんは。
見たこともない表情をした。
嗚呼、と思った。険しくて、怒りを現わしたその顔は。まるでお父さんの背中に描かれた閻魔様の顔、そのものだった。その男が林の襟首を掴んで何か、怒鳴る。だけれど林は首をすくめて手の中にあった私のパンティーを見せると、男は途端に青ざめた。それから林は私の携帯を操作して、さっき撮った動画を見せた。その動画は、私が涙ぐんでお父さんに助けを求める動画だ。
「お父さん……助けて……。怖いよ………」
まあ、そんな所である。チープ極まりない。でも、チープってことは間違いがないってことと同じ意味で。お父さんはその動画を見た瞬間に膝から崩れ落ちて林に土下座をした。
きっとこう言っているんだと思う。
「頼む、なんでもする、なんでもするから娘だけは解放してやってくれ……。まだ十七歳なんだ……俺はどうなってもいいから」
そんなお父さんの懇願につけこんで、林はポケットからプラスチックの小さなピルケースを取り出して、三錠程の錠剤を手に落とすと、お父さんに差し出した。
林の唇がこう、囁く。
「娘さんが可愛けりゃ、これを飲め」
そうすると、すぐにお父さんはそれを飲み込んだ。それに愛を感じる。無償の愛。お父さんが私にくれる、愛の形は、何が入っているか解らない薬を私の為に飲んでくれるっていう、愛。
ああ、たまらない、たまらなくなる。私はお父さんの事がもっと好きになって、しまう。
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