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(ああ、お父さんは私の笑顔の真実の意味をご存じないのです)
そして私がリビングの片づけをしていると、二階に上がっていく足音が聞こえる。とん、とん、とん。
しばらくしてから私はそっ、と階段を上がる。足音を殺して。
階段の目の前が両親の寝室だ。
両親の寝室の扉は引き戸である。そしてその引き戸をゆっくり開けると、ベッドが見える。
お父さんがお母さんを寝かせて着替えさせている。するとお母さんは甘えたような声を出しておねだりする。
「ねえ、守……。来てよ」
「駄目だよ美鈴ちゃん。美森が……」
「いいじゃない。私、明日からオーストラリアなんだよ。ねえ、他の人を抱いてるの?」
「なにを」
「うそ、そんな訳ないもんね。知ってる。そんな顔をしないで、守。さあ、脱いでよ。私だけに見せて」
「美鈴、駄目だって」
「犯してよ、奥まで。欲しいの」
快活な母親が父親を股を開いて誘うのだ。
気弱な父が俯いて何かを考えている。が、いつもそこまで、がセオリー。彼らの儀式。
おもむろにお父さんがシャツを脱ぎだす。寒い時も暑い時も長袖のワイシャツを着ているのは。
「仕方のねえ奴だ。いくつになっても」
お父さんが低い声で笑う。
「いくつになっても私の事、抱ける?」
お母さんが媚びる。
「ああ。お前なら、棺桶に入った死体になったって抱けるぜ」
「嬉しい」
そう言ってお父さんはシャツを剥ぎ、肌シャツを脱ぎ捨てると。そこには極彩色の閻魔様が見える。牡丹がぼたん、ぼたん、と舞い落ちている。
小指のない左手。背負った入れ墨。
普段とは違いすぎる男が、抱き慣れた女を抱く。激しく口づけをして、それから開かれた股に口をつけて、じゅるじゅるじゅる、と舐めてすする音がする。指も抜き差しして激しく、責めたてるとお母さん、だった女が悶えてただのケダモノになる。それをお父さん、だった男が貪る。ジーパンのファスナーだけを降ろして、そのまま挿入する。息遣いしか、ない。うう、とかおお、とか呻くのはみんなお母さん。お父さんはずっと。黙って。腰を動かして。
奉仕している。
美しい、獣。
私にはそう見えている。
私は頃合を見てゆっくりと階下に降り、自分の部屋に戻るとオナニーをする。
お父さんの体に描かれた閻魔様の顔を思い出して。興奮する。胸が苦しくなる。自分の尖端をつねる。クリトリスをきつく。痛みが走るまで。つねる。そこで、私は思う。
(お父さんが、欲しい)
この情熱はなんというのだろうか。近親相姦希望?ううん、そうじゃない。私のお父さんは気弱そうな、専業主夫歴18年の、得意料理がビーフストロガノフっていう優男だ。
扉の隙間から見える、あの男は。
あの男が欲しい。
あの男に抱かれたい。
と、そこで私はふと、違和感を覚える。
(そうじゃない。そうじゃないんだ)
私はあの閻魔様の背中を持つ男の顔を見たことがない。ただ、偶然に両親のセックスシーンを覗いてしまった時。
私はあの男を手に入れたいと思ってしまったんだ。それも、強く、強く。人生の全てをかけてあの男を私の物にしたいと思ってしまったんだ。
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