出会った時から解ってた、匂ってた。私達、お互いクズだってこと。

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出会った時から解ってた、匂ってた。私達、お互いクズだってこと。

ある日、偶然。 というのは多分必然的なものと偶発的な事と、悪魔じみた何かの仕業が組み合わさって出来た運命の事を言うのではないかと私はその日、思った。 私が高校の正門から出ると、ああ、普通の人じゃないなという男が私を待っていた。 「君、木ノ内さんの娘でしょ。よく解るよ。だって、凄い似てるから」 「私。そんなこと一度も言われた事ないんだけど」 「嘘でしょ?よく似てるよ。なんか、すごく不満そうな、目。あの人の若い時にそっくりだぜ」 男の名前は林と言った。私は近くのカフェで紅茶とナポリタンを奢ってもらいながら話を聞いた。林は30代後半、といった佇まいでなんだか、嫌な男だなと思った。 「君のお父さん、やくざだったって知ってる?」 「うん、知ってる」 「なんで?」 「背中に」 「うん」 「入れ墨だし。小指ないし」 「え、あれ?小さい頃お父さんとお風呂入ってたタイプ?」 「ううん。小さい頃、お父さんとお風呂入った記憶はあんまりない。あっても、途中まで服をきたお父さんが体を洗ってくれて、あとは自分でお風呂に入りなさいって言ってたから。なにかあるとは思ってたけど」 「じゃあなんで、入れ墨、解ったの?」 林は蛇みたい目をしている。ああ、気味が悪いなと思ったけれど嫌ではなかった。むしろ、なんだか何を話しても許されるんじゃないかという気さえしてきた。だから私はジャブ代わりにこんなことを言った。 「親のセックスを覗いたの」 「え?」 「私、そういう趣味だから。悪い?」 「いや悪くないけどさ。そういうの初対面の男に言うの、良くないんじゃない?」 「なんで?」 「いや、ほら。誘ってる感じとか……さ。この子遊んでんのじゃないか、とかさ。思われちゃうんじゃない?」 「私、おじさんみたいな人好きじゃないけどね。で、何?私に用って」 「うん……まあ、ねえ」 と林は幾分気まずそうに目線を逸らしてうーん、と唸った。 そこで、私はピン、と来た。 「ねえ、林さんてさ」 「うん」 「うちのお父さんの事、好きでしょ」 「うん?うん、そりゃ好きだよ」 「そうじゃなくてさ。セックスしたいっていう好き、でしょ?」 「おい!」 「大きな声出さないでよ」 そう言いながら私はナポリタンを食べる。カフェのナポリタンはどこで食べても美味しい気がする。赤い長い麺をスプーンで巻いて頬張りながら、ピン、ポーン。とクイズ番組で良く聞く正解のチャイムの音を口を開けずに口ずさんでやると、眉をしかめながらため息をついた。 「あんた……いい性格してるよ」 「ありがと。これって、お父さん似?」 「いや……どちらかと言うと俺に似てるよ。もちろん俺はあんたの親じゃねえけどな」 「そう。で、林さんはどうして私に会いにきたの?」 「ああ」 と言って林は男らしい顔をほころばせて、私に言った。 「あんたを誘拐したいと思ってね」 私はなるほど?と言ってナポリタンを飲み込むと、紅茶でケチャップ味のする口内を洗ってからその紅茶も飲み込んだ。 「目的は?」 「あんたの親父さん」 「私への報酬は?」 「いくら欲しい?」」 「そうね……」 私は少し考えるふりをしてから、言った。 「あんたの、共犯のポジションかな」 そう言うと、気が合うね。俺もそう思ってた。と笑った。
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