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「惚れないでね」
「惚れねえよ。お前の母ちゃんと八田さんが出会ってからあの人、随分と大人しくなってさ。餓鬼が出来たからってやくざやめるって言うんだ。そりゃ、ねえよな。自分だけ幸せになっちゃだめだよ。俺達後輩はさあ。あの人に憧れて、信じて極道の道に入ったのにさ。一抜けたってさ。やってらんねえよな。俺は……あの人に惚れてた。それも、お前の言うセックスが目的で、八田先輩の後を追うように極道になったっていうのに。なにが、専業主夫だ。あんな、猫の!猫のエプロンなんか着ちゃってさ。ふざけんじゃねえよ、だよなあ」
「なんで」
「うん?」
「なんで今更、お父さんの所に来ようと思ったの?だって、もう随分前でしょ。お父さんがやくざ辞めたの」
「ああ……十五年前くらいかな」
「だから、なんで」
「俺、死ぬからさ」
「え?」
「今度、一人殺して来いって言われたんだよな」
思わず私が林の顔を見ると、なんでもないような顔で林は笑った。
「どうせ、地獄に行くなら。好きな事したって許されるんじゃねえかな。そう思ってさ。真っ先に頭に浮かんだのが八田先輩を犯したいって事だった」
「クズじゃん」
「ああ、知ってる」
「でも、嫌いじゃない」
「ありがとな」
「ねえ」
「ああ」
「お父さん、抱かしてあげるよ」
「嬉しいね」
「その代わり」
「うん」
「私も、お父さん抱きたいよ」
「……良いのか?お前……これからがあるじゃねえか。お前、だって、女だし、抱けないじゃん。お前……死ぬ訳でもないし……、お父さんと気まずくなるだろ?」
「どうせさあ。私もロクな大人になれないと思うんだよね。だからさあ。どうせさあ。地獄に行くんだと思う。私、自分で解ってる。だから、ね?一人より、二人がいいよ。付き合ってあげるよ」
私がそう言うと、林は泣きそうな顔で笑って。私の頭を撫でてくれた。
私達は短い間で解り合った。
私達は相当な、屑だ。
そして、屑は屑の夢を見て。
破滅したくなる。
そんな生き物なのだという事がよく解ったのだった。
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