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お父さんが悪いのよ。だって魅力的なんだもん。私はなんにも悪くないもん。そんな言い訳を百万回しながら生きていたい。
それから林は家の前にとめてある、私が乗った車を指さす。すると、お父さんは勢いよく車を見つめ。そして私の姿を発見して、泣き出しそうな顔で私の元へ駆け寄ってきた。
窓ガラスごしでも、解る。お父さんは私の名前を呼んでいる。
「美森!」
ぼさぼさの髪に、眼鏡をかけた白いワイシャツを着てエプロンをつけたままのお父さんは、助手席のドアを開けて私を抱きしめた。
「ああ……ごめんな、ごめんな美森!怖かったろう……可哀そうに……今、外してやるからな」
そう言って私の口を塞いでいた赤いリボンをほどいてくれた。私はお父さん、と呟くと。
お父さんは手もほどいてやるからな、と言って私の背中に手を回した。
「……ん?」
そこでお父さんは違和感に気が付いたような顔をするのです。
自由な両手をひらひらとさせながら私は笑って舌を出します。
「ごめんね、お父さん。私、全然可哀そうな目にあってなかったんだ」
「なんだって、それじゃ、なんで。なんで林と」
「それは俺達が友達だからだよ、八田先輩」
いつのまにかお父さんの背後には林がいて。私はそういう訳なんだ。と言ってお父さんの顔を両手で持って、ぐい、と引き寄せる。
そしてお父さんに。
初めてのファーストキスを、あげた。
舌を入れて、味わいたかったけど、流石にお父さんはそれを許さなかった。やめなさい、と険しい顔をしながら私から離れる。
でもその背後には林が待ち構えているのだ。後ずさったお父さんの左手首を左手で捕まえて、右手でお父さんの首を無理やり後ろに曲げて。林もお父さんにキスをした。
長い、キスだった。
まるでお父さんが窒息するんじゃないか、というくらいのディープキス。
「んううう」
お父さんが嫌がってじたばたしているけれど、我々は許さない。お父さんのジーパン、お日様の匂いがする洗濯物、猫のエプロンからは食べ物の匂いがする。
お父さんの腰に手を回して、私はお父さんの下半身を拘束している。
林はお父さんの口の中を犯している。
しばらくそうしていると、隣の家の中川の奥さんが玄関から出てきて、私達を見つめた。
私は元気よく「こんにちは!」と声をかけた。そうすると、林もお父さんから唇をはずして、「こんちは!」と笑いかけたので、中川の奥さんも「こんにちわ」と頭を下げた。
お父さんは何も言わなかった。ただ、右手で胸を押さえた。
「ちょっとお父さんが、具合が悪くて。介抱していたんです」
と、私。
「ええ、そうなんです。アニキはちょっと心臓が悪くて。人工呼吸をしてやっていたんです」
と、林。
「あら、大丈夫なの?」
と、中川の奥さん。
だから、私と林は仲良く答えた。
「もちろんですよ、私達がついていますので」
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