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「食べないのか?」  フォークが口元でぼんやりと止まっているシエラにいい加減見かねたらしいヴァシレフスが声を掛けた。 「あっ、食べる」と、慌ててシエラは少し冷めた料理を口に運ぶ。  シエラが自分の意思でこの城に住むようになってから二人は一緒に食事をするようになった。  そしてヴァシレフスが望めば朝まで一緒にいることも増えた。 「昼間ニキアスに会ったんだろう?」  ナプキンで口元を拭いながらヴァシレフスはチラリとこちらを見た。 「会った。弟がいたんだな、知らなかった」 「昨日まで留学してたからな。確か年はお前とそんなに変わらない筈だ。気が合いそうか?」 「わざと聞いてるんだよな、嫌味な王子め」  ジロリと琥珀色の瞳に睨まれヴァシレフスはクククと意地悪く笑った。 「俺が部屋に帰ったらニキアスがそれはもう獅子に追われる牛かと思うような勢いで突っ込んで来て。アイツはなんなんですか、どうしてここにいるんですか、伴侶ってなんですかと矢継ぎ早に捲し立てて来て、ハハハ。おかしいったらなかったよ」 「ふざけるな、笑えるのはお前だけだ、こっちは危うく剣で刺されそうになったんだぞ。王子様ってのは意外に野蛮なんだな。いや、あれはお前に似ただけか?」 「そうかもな」とヴァシレフスは性懲りも無く笑う。  頭にきたシエラは残りの夕食を一気に口に掻き込むと、ご馳走でした! と、テーブルにカトラリーを投げるように置き、ヴァシレフスを一人残して食堂を後にした。
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