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◆◆◆◆
俺は倉庫でけんめいに働いた。
この間部屋から退去してからは、ネカフェやマックの店舗などを転々として寝起きする生活をしていた。学生のころとは180度違う、言ってしまえば快適とは程遠い毎日でも、俺には祥吾の帰るべき場所を確保するという使命があった。
働いて、働いて、そして貯めた金で、あいつが帰って来られる、二人で暮らすことのできる部屋を用意する――それが今の俺を支える大きなモチベーションだった。
そして、余裕ができたらそのときは、清水の家に少しずつでも金を送るつもりでいた。受け取ってもらえないかもしれないけど――俺にできることは墓参りの他に、それくらいしかなかった。
面会の日以来、祥吾とのやり取りは、伊丹さん経由の手紙だけに限られていた。
面会から五日後に呼び出され事務所で受け取った封筒を、俺はネカフェの個室で開いた。
手紙には、俺の気持ちは分かったということの他に、余計に淋しくなるから面会へは来ないでほしい、という趣旨のことが書かれていた。
末尾には、”そのかわり、必ずこまめに手紙を書きます”とあった。
俺は白い便せんに目を落としたままぼんやりと考えた。
祥吾が自分のもとから離れるつもりはないらしいことを確認して、安堵する気持ちもあった。けれど、今は会いたくない、とストレートに伝えられたことで、その安堵の色も消し去られるみたいだった。
それでも、塀の中の祥吾がどんな気持ちでいるかなんて、俺には想像でしか分からなかった。そうある以上、祥吾の言うことを曲げてまで拘置所に押し掛ける気はならなかった。
翌日俺は百円ショップで便せんを買った。
バリエーションをつけるために種類の違う便せんをいくつもかごに放り込みながら、こんなに便せんを買いだめするやつも今どき珍しいんだろうな、とふと思った。
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