証言

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 ◇ ◇ ◇ 「何も知らない。あたし、あの人と仲良くなんかないもん」  美空葵はつっけんどんな口調で捲し立てた。  美空葵、14歳。中学三年生。美空俊太郎と遥香の娘。中学ではバレーボール部に所属しており、快活な少女という印象を受けた。ぱっちりとした瞳が愛らしさを醸し出しているが、どこか気が強い印象を受けるのは父親の遺伝かもしれない。今時の若者らしく、有事でもスマートフォンを片時も離そうとしない。 「葵ちゃんは、お姉さんのことあんまり好きじゃないの?」  相楽が問うと、彼女はポニーテールを勢いよく振りながら肯定した。 「キライ! だってあの人、お父さんが違うの気にしてるみたいで、あたしに対してよそよそしいの。あたしの顔色窺ってばっかりでさ。やんなっちゃう。あの人はあたしと家族になろうなんて気、更々ないんだ。そんな人と仲良くする義理なんてない。違う?」  嫌悪を隠そうともしない少女に、日向は閉口した。  己は年頃の少女と接するのが苦手だ。ストレートかつ不躾な物言いは思春期特有の複雑な乙女心を簡単に傷つけてしまうらしく、いつも泣かせてしまう。だから今回も相楽に代理で聴取を任せたのだが、彼女らの問答を隣で眺める内に、更に苦手意識が強まった気がする。  湧き起こる感情を素直に告げる葵は、自分の言葉が凶器となって容易く他者の心を傷つけるとは夢にも思っていないだろう。そんな少女らも、いざ自分が刃物を受ける立場になると酷く傷ついたと怒り、泣く。やはり、日向には思春期の少女の機微は到底理解出来そうもない。  しかし相楽は同性相手だからか、匙を投げることなく粘り強く質問を繰り出していく。 「じゃあ、お姉さんが狙われる心当たりとかもわからない?」 「さあ? どうせパパの仕事関係じゃないの。パパも相当悪どいことやってるらしいし。あの人も演劇こそやってるけど、運動はからきし駄目だから簡単に誘拐なんてされるのよ。ダサーい」  けらけらと嘲笑を吐き捨てる。相楽はそれを受け流して本題を切り出した。 「それじゃ、昨晩の葵ちゃんの行動を聞かせて貰っていいかな」 「う……うん。いえ、はい……」  ピリッと引き締まった空気に気圧されたのか、葵は緊張した面持ちでぎこちなく頷いた。 「あたしは昨日の夜中――日付が変わった辺りかな……それまで寝てたんだけど、喉が渇いて起きちゃって、台所まで水を飲みに行ったの。その帰りに見回り帰りのオルさん――太田さんと会ってちょこっとお喋りしてたら、急にガラスが割れる音と一緒に悲鳴が聞こえて……あたしビックリしちゃって動けなくって。そしたらオルさんが危ないから部屋に戻って、って言うから慌てて部屋に戻ったんだけど、パパもオルさんも怒鳴ってて、何が何だかわからなくて正直怖かった。だからずっと布団に潜り込んで震えてたの。いつの間にか寝ちゃってたみたいだけど……。今朝は、オルさんがまた騒いでたから何かあったのかな、って思って起き出したらパパに止められた。お前は見るな、って。死体なんか見ちゃったら最悪だもんね。そこは感謝してるけどさ。あたしが知ってるのはこれくらいです」
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