名探偵登場!

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名探偵登場!

「退屈だな」  欠伸を噛み殺しながら所長が言った。私は独り言を無視して、テーブルの上の新聞を手に取り眺める。 「こうも退屈じゃあ、ボクの鉛色の脳細胞が死滅してしまうよ」  一人ごちる。それを言うなら、灰色の脳細胞でしょ? 思わずツッコミを入れたくなったが、無視無視。この人に関わるとロクなことにならないのは学習済みだ。  しかしこの人はこの程度の無視じゃへこたれない、図太い神経の持ち主だと失念していた。目の前をブンブン飛び回る小蝿の如く、しつこく絡んでくる。 「知的好奇心の強いボクには退屈は毒だ。ねえねえ、グリーン。何か面白い難事件を持っていないかな?」 「あのですね」  ああもう、我慢の限界。私はソファから立ち上がると、仁王立ちで所長を睥睨する。 「一介の女子高生が難事件なんて持ってるワケないでしょうが!?」  お前は馬鹿か! 口を衝いて出かけた罵倒をグッと吞み込む。そもそも、私の名前はグリーンではなくみどりだ。(セキ)みどり。わざわざ英語に訳して呼ぶ必要はないでしょうに。 「大体アンタ退屈だ暇だって言ってますけどね、じゃあ今やってるそれは何ですか?」  所長の手元に握られているのはゲーム機のコントローラー。口では暇だの何だのほざいていたが、実のところは指を懸命に動かしてレーシングゲームをプレイしていたのだ。  私の指摘に、所長は人差し指をチッチッチ、と振って「解ってないなぁ」と嘆息を零した。 「グリーン、ゲームは暇潰しのためにやるモノだろ? ということは、ボクが今現在ゲームに興じるのは、暇という証拠に他ならない。お解りかな?」  その仕草、そしてドヤ顔のウザさたるや! 怒りに震える私は新聞をぐしゃりと握り潰す。 「おっ、グリーン。良い物を持ってるじゃないか。そいつにならボクの知的好奇心を擽る事件が載ってるかもしれないね。貸して!」  半ば無理矢理私の手から新聞をひったくると、所長は目を細めて隅々まで目を通した。やがて、 「……ダメだ」  ぱさり、と放り投げると同時に、四肢をだらりとソファに投げ出す。 「どれもこれもつまらない。取るに足らない事件ばかりだ」 「また不謹慎なことを……ああ、これなんてどうですか。閑静な住宅街で白昼堂々と起きた密室殺人。ミステリ小説っぽくないですか?」  所長は「ダメダメ」と気のない否定を繰り返す。人が折角気を利かせてやったってのに、このダメ人間め! 我儘にかけては一級品だ。 「これじゃあボクの知的好奇心が枯渇してしまうよ。飢え死にしてしまう!」  仕舞いには頭を抱えて大袈裟に嘆く。私は呆れて物も言えない。ああ、そうですか。じゃあいっぺん死んでみろよ――暴言が今まさに飛び出そうとしたその時、  ピンポーン……玄関の呼び鈴が鳴らされた。 「はーい」  これ幸いとばかりに私はいそいそと玄関に向かう。宅配便だろうか。何にせよ、所長以外の他人と接することで多少のストレスは緩和されるだろう。  期待を込めてドアを開けると、そこにはパンク・ファッションに身を包んだロックなお姉さんが立っていた。
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