捜査は足で稼げ

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 ◇ ◇ ◇  演劇部の取材に応じてくれたのは、つい先日新しく部長に就任した青柳(アオヤギ)清花(サヤカ)さんという女生徒だった。二年生というから、私と同学年である。  礼儀正しく丁寧にもてなしてくれる彼女を騙すのは気が引けるが、これも捜査のためだ。心を鬼に臨むしかあるまい。 「先日の大会では素晴らしい劇を披露なさったそうですね。優勝おめでとうございます」 「ありがとうございます」  青柳さんは柔和な笑みではにかむ。とても愛らしい笑顔だ。  黒田さんは売れっ子作家なだけあって、インタビュー慣れしている様子が窺える。テンポ良く質問を繰り出していく。 「ここ木沢津高校の演劇部は、数々の演劇コンクールを総嘗めしていますが、単刀直入にお聞きしたい。強さの秘訣は何ですか?」 「それはやはり、代々受け継いできた伝統に対する誇りでしょう。歴史を作り上げてきた先輩方の努力を裏切ることのないよう、部員一同常に最良を尽くしています」 「成程。その結果部員達の団結力がより高まり、質の良い劇に仕上がる訳ですね」 「特に先日の大会は三年生の先輩方の引退が控えていたので、有終の美を飾れるような、集大成とも呼べる作品を作り上げる事が出来たと自負しています」  あれ? 今の会話の中で、ふと引っ掛かるものがあった。私は一人首を傾げる。  執事の太田さんの話では、瑞希さんは誘拐される直前まで次の大会の構想を練っていたのでは、という話だった。でも、その時は既に瑞希さんら三年生は最後の大会を終えて引退していたはずである。では、彼女はラジカセをつけっぱなしで、一体何の作業をしていたのだろう?  その時だった。 「おい、青柳」  戸口から一人の男子生徒が現れた。外国の血が混ざっているのだろうか。銀色の髪に色素の薄い肌。すらりと長い手足。かなりのイケメンだ。ストライクゾーンど真ん中を打ち抜かれた気分。などと見惚れていると、 「どうしたの、和巳(カズミ)くん」 「テープ知らねえ? こないだの大会の台詞音読を録音したヤツ」  こないだの大会……先の話に出てきた、瑞希さんら三年生最後の大会のものだろう。確か、ミステリー劇とか言ってたっけ。ミステリファンとしては是非一度拝みたいものだ。 「え? それなら他のテープと一緒に倉庫に保管してたはず、だけど」 「倉庫中探しても見つからないんだよ。誰か持ってっちまった、ってことはない、よな……」  和巳くんと呼ばれた男子生徒は困った様子でがしがしと頭を掻き毟る。青柳さんはそっとその背中を押した。 「わかった、私も探してみるよ。でも今はお客様来てるから、また後でね」  すると和巳くんはようやく私達の存在に気付いたらしく、慌ててぺこりと頭を下げた。こちらもつられて頭を下げる。  和巳くんが退室すると、青柳さんは困り笑いを浮かべた。
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