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「すみません、話の腰を折ってしまって」
「いいえ、構いませんよ。ところで、紛失したテープというのは、先のお話に出てきた優勝作品のものですか?」
大人らしく寛大な姿勢を見せた黒田さんは、実にさりげなく話題を掏り替えた。
「はい。といっても、録音されてるのは台詞のみですから、面白味に欠けると思いますよ。それに、ちょっと今行方不明みたいですし」
「ああ、それは残念だな。一作家として、舞台の台詞回しを今後の作品の参考にしたかったのですが」
わざとらしく残念がると、青柳さんは慌てて手を振りながら謙遜した。
「そんな、私達は所詮素人ですので、プロの作家さんの足下にも及びませんよ!」
「いえ、面白い作品に素人も玄人も関係ありませんよ。現に、脚本を含めた劇全体の完成度が評価を受けて優勝を果たされたのでしょう。ちなみに、脚本を書いたのはどなたですか?」
質問に、青柳さんは悲しげに目を伏せた。
「美空先輩です。あの人は演劇に対する情熱が凄くて、先日の最後の大会では脚本から主演まで、全て一人でこなしていましたから。でも、あんなことになってしまって……」
語尾を詰まらせてしまう。無理もない。尊敬する先輩が誘拐されてしまったのだから。
それにしても意外だった。妹の葵さんの話を聞く限り、瑞希さんは大人しい人という印象を抱いていた。それとも、舞台に上がると豹変するタイプなのだろうか。
「その脚本――台本でも構いません。読ませていただくことは可能ですか?」
「え、ええ……コピーとったものが余ってるので、よかったら」
青柳さんは机上の紙の束をがさがさ漁り始める。やがて目当てのものを見つけたのか、「どうぞ」と二冊分手渡してくれた。気が利いた人で助かる。
「それ、差し上げます。プロの方に読んでいただけるなら、美空先輩も喜ぶでしょうし……」
黒田さんは神妙な面持ちでそれを受け取ると、おざなりな口上を述べた。
「一刻も早く、才能ある彼女が無事に還ることをお祈りしています」
青柳さんは眉尻を下げた儚い笑みで私達を見送ってくれた。
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