11人が本棚に入れています
本棚に追加
ガシャーン!!
「きゃあああああ!!!」
ガラスの割れる派手な音。やや遅れて、劈くような悲鳴が耳を突き刺した。その場に居合わせた太田も葵も、あまりに唐突な出来事に虚を突かれ、動きを止めた。
しかしすぐに我に返る。今の悲鳴の主は、
「お姉ちゃん……?」
「瑞希様!?」
瑞希は葵の姉で、美空家第一令嬢に当たる。
太田はさっと青褪める。ガラスの割れる音と共に轟いた瑞希の悲鳴。もしかすると――最悪な考えが脳裏を過ぎる。考えを振り払うように、身体が動いていた。
「私は瑞希様の様子を見に行って参ります。葵様は危ないので部屋にお戻りください!」
戸惑い立ち尽くす葵に言いつけ、太田は瑞希の部屋へと駆け出した。
彼の脳裏に瞬時に過ぎった最悪な考えとは、邸内に侵入した何者かに瑞希が襲われた、というものだった。しかし、自分が先程終えた見回りでは、怪しい人物は見当たらなかった。杞憂で終わればいいのだが……。
しかし、そんな悪い予感は、残念ながら当たってしまうのだった。
二階の廊下の突き当たり、そこに長女瑞希の部屋はある。現在地は一階廊下突き当たり。太田は階段を駆け上り、そこまで全力で駆けた。辿り着いたそこには、既に先客がいた。
「おい、瑞希? いったい何の騒ぎだ!」
美空家当主、俊太郎が瑞希の部屋の戸を叩いていた。彼の部屋は同じ二階にあるので、異変に気づき素早く駆けつけたのだろう。
「俊太郎様、瑞希様は」
「知らん! さっきから呼んでいるが、返事がない」
「有事です、瑞希様には悪いですが中に入らせていただきましょう」
「そうだな」
ドアノブに手を掛ける。それはあっさりと回った。鍵は掛かっていないようだ。太田は妙な胸騒ぎを覚え、ドアを思い切り開いた。
「瑞希様!」
直後、風が吹き抜けた。目の前の惨状に、男二人は目を瞠った。
窓ガラスが粉々に砕け、そこから吹き込む夜風にカーテンが翻る。室内にはガラスの破片が散乱し、隅々まで荒らされた形跡が残っており、ぐしゃぐしゃだ。
そして片隅に鎮座するベッド。そこに寝ているはずの部屋の主は、そこにはいなかった。
「これは――」
二人、声を失う。部屋を見渡す限り、瑞希の姿はどこにも見当たらなかった。
「瑞希! おいどこだ瑞希、返事をしろ!」
俊太郎が半ばヤケになりながら叫ぶ。太田も神経を尖らせ部屋を隈なく探すが、瑞希の姿はとうとう見つからなかった。
が、代わりに見つけたものがあった。一枚の紙切れ。それを見た瞬間、太田は軽い眩暈に襲われた。
「俊太郎様、これを……」
ベッド脇のサイドボードの上に乗せられていたそれは、テレビドラマでよく見るような、稚拙な新聞の切り抜きで作られた脅迫状だった。
『娘は預かった。返して欲しくば現金120万円を用意しろ。用意出来なかった場合娘の命は無いと思え』
最初のコメントを投稿しよう!