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「では、次の質問です。瑞希さんが誘拐された前後に三ツ屋さんが殺されました。その時刻の貴方のアリバイはありますか」
核心を突く問いを投げれば、太田の顔色がさっと蒼白になった。
「わ、私を疑っておられるのですか!?」
「一応、形式的なものです」
とは答えたものの、太田が容疑者の一人であることに間違いはない。それは伏せておいた。
「その頃なら私は瑞希様を探して敷地内をうろついていましたから……アリバイはありません」
「太田さんが瑞希さんを探していた時に、三ツ屋さんの死体は見つからなかったんですか?」
相楽の質問に、太田は畏縮しながら答えた。
「いいえ、暗かったせいもあり、その時は……」
死体は茂みに隠されるように遺棄されていた。夜の暗闇で見つけるには困難だっただろう。そしてそれは陽が昇った早朝に発見される事になる。
「太田さんは被害者の三ツ屋さんについて存じ上げておられたのですか?」
「ええ……。と言うのも、私は遥香様の幼馴染みでして、その縁もありこちらで世話になっているのです」
それは初耳だった。
「そうだったんですか……」
「はい。元々は会社勤めをしておりましたが、ここのところの不況の煽りを食らいリストラされまして。困り果てたところをそれなら、と主人に直談判されて紹介してくださったのです。遥香様は私にとっての恩人なのです」
すると――、日向は顎をさする。太田にも三ツ屋を殺害する強い動機がある、ということになる。遥香を慕っていたのなら、尚更。
「では、三ツ屋さんの遺体発見時の状況を詳しくお伺いしてもよろしいでしょうか。あまり思い出したくない事柄かと思いますが、どうか捜査にご協力いただけないでしょうか」
「はい……」
太田は再び肩をしゃちこばらせると、恐る恐る、口を開いた。
「深夜の捜索は不発に終わり、主人共々一旦寝室に戻ったのですが、やはり瑞希様のことが気に掛かってなかなか寝つけませんでした。そこで私はどうせ眠れないのなら明るくなるまで待って、もっと本腰を入れてお嬢様を探してみよう、と思いました。そこで朝陽が昇った頃、見回りも兼ねて瑞希お嬢様の痕跡を探し始めました。周囲は明るいので、昨晩は気づけなかったものも見つかるだろう、と。しかし、それでも瑞希様は見つからず、その代わり……」
三ツ屋の死体が見つかったという訳か。太田は視線を俯かせた。白手袋に包まれた両手を忙しなく擦り合わせる。
「私は大変たまげて、お恥ずかしながら腰を抜かしてしまいました……。それでも何とか主人の部屋に辿り着き、無礼を承知で叩き起こすと庭で人が血を流して倒れている、と伝えました。なにぶん昨日の今日のことでしたので、主人も血相を変えて飛び出して行きました。はい、私も同行しております。死体と対面した主人はこれは三ツ屋だ、と仰いました。私もその時になって、ようやく死体が三ツ屋圭介だと気づいたのです。最初は動転してしまい、ロクに顔も見れなかったものですから……。そこで主人と二人、相談して警察に通報することに致しました。瑞希様の件も包み隠さず話してしまおう、と。主人は始めは渋っておりましたが、それでも死体が見つかっていますから、やむなく」
「成程。ありがとうございます。たいへん参考になりました」
太田は尚も謙遜しながら退室した。閉じたドアを見つめながら、日向は丸山に指示を出す。
「次は主人を呼んでくれ。まともに話を聞けるとは思えねーけどな」
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