『まくらがえし』 Side オレ

1/1
前へ
/40ページ
次へ

『まくらがえし』 Side オレ

昔テレビでやっていた。 何か怖いお化けか妖怪?みたいなものだって。 寝ている人の枕をひっくり返したり、向きを変えたりするらしい。 なんだよ、そんなの些細な悪戯じゃんって思ったけど、 どうやら、魂を抜き取ったりするって説もあるらしいって、検索したら載っていてちょっと怖くなった。 でもさ、せっかく枕をひっくり返すんなら、悪い夢もひっくり返してくれたらいいのにな、って思う。 怖くて仕方のない夢も、ひっくり返って良い夢に変わっちゃうなら、怖いお化けって言われなくなるのにな、とか思う。 でもでも、良い夢だったのに、ひっくり返って嫌な夢になっちゃうんなら、やっぱり悪い妖怪なのかな。 つらつらと夢うつつで、そんな事を考えていたのは、今日の帰りの出来事が頭の中をぐるぐる駆け回っているからか。 ①一緒に帰った。 ②話をした。 ③(自転車を避けるために)引き寄せられた。 そんな三行日記に書くような事でしかないのに、オレの腰を引き寄せたその力強さとか。 背の高さとか、あいつの身体の厚みとか。 自然に触れてしまいそうなあいつとの距離感とか。 同じ男なのにオレとは違う、もっと力強いその存在感に、聴こえないように蓋をしたはずの感情が、溢れ出してしまいそうなのを感じる。 まだだよ。 まだだめだよ。 そこを覗くのはまだ怖い。 それに気づくのはまだ早い。 何処からともなく聞こえた声は、知っているような気がしたけれど。 ぬくぬくとした布団の中で、今にも眠りそうなオレの脳裏に浮かんだ声は、 オレを引き寄せた時にあいつが漏らした優しい笑い声だった。 ・・・だから、あいつと一緒にいる夢なんて見ちゃったんだよ・・・。 ―翌朝、あの時の学生かばんと同じように、枕を胸に抱きしめて寝ていることに気づいたオレの魂の叫びは、「まくらがえし」を死守したからじゃぁ絶対にない。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

62人が本棚に入れています
本棚に追加