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『まくらがえし』 Side オレ
昔テレビでやっていた。
何か怖いお化けか妖怪?みたいなものだって。
寝ている人の枕をひっくり返したり、向きを変えたりするらしい。
なんだよ、そんなの些細な悪戯じゃんって思ったけど、
どうやら、魂を抜き取ったりするって説もあるらしいって、検索したら載っていてちょっと怖くなった。
でもさ、せっかく枕をひっくり返すんなら、悪い夢もひっくり返してくれたらいいのにな、って思う。
怖くて仕方のない夢も、ひっくり返って良い夢に変わっちゃうなら、怖いお化けって言われなくなるのにな、とか思う。
でもでも、良い夢だったのに、ひっくり返って嫌な夢になっちゃうんなら、やっぱり悪い妖怪なのかな。
つらつらと夢うつつで、そんな事を考えていたのは、今日の帰りの出来事が頭の中をぐるぐる駆け回っているからか。
①一緒に帰った。
②話をした。
③(自転車を避けるために)引き寄せられた。
そんな三行日記に書くような事でしかないのに、オレの腰を引き寄せたその力強さとか。
背の高さとか、あいつの身体の厚みとか。
自然に触れてしまいそうなあいつとの距離感とか。
同じ男なのにオレとは違う、もっと力強いその存在感に、聴こえないように蓋をしたはずの感情が、溢れ出してしまいそうなのを感じる。
まだだよ。
まだだめだよ。
そこを覗くのはまだ怖い。
それに気づくのはまだ早い。
何処からともなく聞こえた声は、知っているような気がしたけれど。
ぬくぬくとした布団の中で、今にも眠りそうなオレの脳裏に浮かんだ声は、
オレを引き寄せた時にあいつが漏らした優しい笑い声だった。
・・・だから、あいつと一緒にいる夢なんて見ちゃったんだよ・・・。
―翌朝、あの時の学生かばんと同じように、枕を胸に抱きしめて寝ていることに気づいたオレの魂の叫びは、「まくらがえし」を死守したからじゃぁ絶対にない。
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