『風薫る』 Side 俺

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『風薫る』 Side 俺

春と呼ぶには遅すぎて、初夏と呼ぶには早すぎる。 そんな中途半端ではあるけれど、それでも一気に木々の青さが眩しくなる季節。 爽やかな風を運んでくるのはありがたいが、日本史の担当教諭がウンチクを語るこの授業ではありがた迷惑か。 「ふぁ~」 クラスの半分以上がうつらうつらしながら懸命に睡魔と戦い、黒板に書かれた文字をノートに必死で書き写している。 後から見ると何書いてあるか分からないんだよな、あれって。 かくいう俺もその一人。いっそ諦めて寝てしまおうか。 運よく手に入れた窓際、一番後ろの席。 全開の窓から吹いてくる風が新学期より少し伸びた前髪を揺らす。 ふらふら ふらふら コクッ きょろきょろ ゆらゆら ゆらゆら ハッ きょろきょろ 目の前の俺よりちょっと小さめな頭が何度も何度も揺れて、覚醒するたびに周りを見渡している様子が目に入る。 コク コク コク ・・・・・・・・・ガクッ ハッ 擬音でも聞こえてきそうなその仕草に俺は笑いを嚙み殺す。 カーッ スッキリとした襟足から除く項がほんのり赤く染まっているのがわかる。 誰も見てないだろうに、赤く染まった項を掌で隠してしまいたい衝動が起こる。 残り5分足らずの授業時間。 俺の意識をかっさらったのは、目の前にあった俯いてよく見えるようになった、わずかに色づく項だった。
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