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「ねえ、ちょっと……」
「ん、どうした、ユズリハ」
「その……あまり意味もなく呼ばないで欲しいんだけど」
エンジュは心外そうにする。
「意味ならあるではないか。そなたの、その照れた顔が見られるからな」
ユズリハの赤くなった顔が、更にまた赤くなった。
「熟れた果実のようではないか、ん?」
「くやしい……」
「何がくやしいのだ、ユズリハ」
エンジュはユズリハの真っ赤な顔を堪能するかのように、もう一度名を呼んだ。
どうやら、「ノックをしない」の他に「ユズリハの名を呼ぶ」が、彼の楽しみの一つとなってしまったようだ。
「いつか泣かせてやる……」
「何か言ったか?」
「……なんでもないわよ、バカ」
小さく呟かれた愛情のこもった「バカ」に、エンジュは笑う。
ユズリハの顎を指先で上向け、その唇を優しくふさいだ……――
〜おしまい〜
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