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「見よ。まぁ、少し頼りなさげではあるが、そこは、ほれ。お前の教育次第だ」
「…………」
父王の期待に応え、仕方なくちらりと肖像画に目をやった。
確かに、可もなく不可もなくという感じだ。
「嫌です」
「何?」
「いーやーです!」
ユズリハは、一番遠くに控えている家臣にも聞こえる程大きな声できっぱりと言った。
「大体、まだ会ってすらいないじゃないですか!」
「何、すぐに顔を合わすことが出来よう」
「……そういうことを言ってるんじゃありません」
勿論、政略結婚というものが王女としての責務であることは十分に理解しているが、こういうのは理屈でおいそれと納得できるものではないのだ。
そして先程父は、一目惚れと言っただろうか。
勿論、意味は知っている。一目見て好きになることだ。
しかし、一目見て好きになるなんてことが、あるのだろうか。
「父上、この結婚を無かったことにしていただけるのでしたら、前の大雨で決壊した堤防の修復作業なり何なり、何でもいたします!」
王は顔を顰めた。
「王女のそなたが、何故そんなことをせねばならぬのだ。ならぬ……。この結婚は決定事項だ」
「父上!」
「相も変わらず分からずやな娘だな、そなたは!」
名君と名高い王も世の父親と変わらなかった。娘の態度に苛立ち声を荒げてしまうが、言われた本人は全く臆することなく、更に勢いづいた。
「分からずやで結構です! 破談にしてください!」
「くぅ……」
聞き分けのない娘に、王は苦虫を噛み潰したような表情になる。
しかし、ある妙案が頭を過り、急に取り繕ったように冷静な声を出した。
「そなた、何でもすると申したな」
「はい」
王はにやりと人の悪い笑みを浮かべた。
「では、一つ条件を提示してやろう。ユズリハ、魔王を征伐してみよ。見事果たすことが出来れば、此度の縁談は無かったことにしても良い」
「な……!?」
ユズリハは耳を疑った。
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