2. 一国の王もひとりの父親

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 魔王……それは、悪逆非道の限りをつくす魔物達の王たる存在。このアストレイア大陸の最北の地にその居城を構えていると言うが、未だかつて征伐を果たした者はいない。  そもそも、触らぬ神に祟りなし……と近づこうとする者は無いに等しい。かつて魔王征伐を掲げた無謀な国があったそうだが、その結果は惨然たるものだったと言われている。  だから王は決して本気ではなかった。目的は、無理難題を吹っ掛けて口煩い王女を黙らせること、その一点であった。  しかし、 「やります!」 「それ、無理であろう。出来ぬ事を申すなど……何? そなた、今なんと申した?」 「ですから、その任務……謹んでお受けします」  ユズリハは再度意志を伝えると、すーっと挑戦的な瞳を王へと向けた。 「父上、よもや権勢を誇るルナセレネア王国の王が約束を(たが)えるなんて……ある筈がございませんよね?」 「んな……」  王は呻いた。 「父上?」  娘の迫るような瞳に、かっと頭に血が上った王はついに言ってしまう。 「ええい、口の減らぬ娘だ! では、そなたに北の地に住まう魔王の征伐を命ず! やれるものならばやってみよ!」  まさか本気である筈がない、と王は啖呵を切ったが、ユズリハはさっさと城を出て行った。  供も付けずに、一人で。  遅れて臣下よりその報告を受けた王は、慌ててルナセレネア王国一の騎士であるゼフィランサスに姫の後を追わせ、連れ戻すようにと命じた……。
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