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「ああ、そう言えばさっき武道場のそばをとおったんだけど…」
コーラでビショビショになった体操服の上着を水飲み場で洗って絞りそのまま着たヒバリが、唐突に話し始めた。
「あん?なんだ?面白いことでもあったのか?聞かせろよ」
しかしなヒバリよ。水を絞っただけの体操服を着て風引かないか?大丈夫か?
「体温ですぐ変わるから大丈夫♪大丈夫♪それにさ、コーラがシミになっちゃうと、おばあちゃんに負担をかけるからね♪」
「相変わらず、おばあちゃん子だな」
「まあ、ね♪」
オレの評価におばあちゃんと二人暮らしなヒバリは、ビジネスライクな笑顔な微笑みを見せた。
ホントにオレとの仲はビジネスライクな付き合いじゃないだろうな?
などと、つい邪推したくなる笑顔だ。なんてことを考えちまう。
「だけど、ふーむ武道場か、確かあそこは生徒会が体育祭運営委員会を設置していたはずだな?」
「そうだよ」
「じゃあ、翔も居たか?」
うん。
と、ヒバリは今度は真剣な顔をして頷き、そのことなんだけどね。なんて具合に早口でしゃべり出し、ついで、『任された仕事内容がわからなくて、スゴク困ってるみたいだったよ』との発言を聞いてオレは熱り立った。
「確認するが、翔は困ってたんだな」
オレの口から出た声音が、声帯と押し込めがたい感情を伝って微妙にビブラートを伴って発信されているのを感じた。
「う、うん。なにに困ってたのか話を聞いてもよくわかんなかったけどね。部品がどうとか郵送がなんちゃらで、生徒会が臨時で使ってる武道館で一人で困っていたよ。気になるでしょ?行ってやりなよ」
ヒバリの勧めを即座に承諾したオレは、麦茶のペットボトルを凹むほど握りしめてズワッと立ち上がり。
「よし!わかった!あいつを助けてくる!!」
とのみ言い放ち、体育祭の100メートル走でも発揮されなかった機敏なスタートダッシュと、もしかしたらこのままワープするんじゃないか?なんて自分で実感するくらいの光速さで、体育祭で披露したおちゃらけまくった面白味なぞ微塵も感じさせぬ真面目さで、手足を力いっぱい全速回転で律動させてピューマもビックリな速度でヒバリのそばから走り去った。
「やー♪早い早い♪流石に翔くんのこととなるとなりふり構わず相変わらずの真摯ぶりだねぇ〜♪」
あの秘めた真面目さと力技を体育祭でも発揮してくれたら、うちのクラスは上位入賞か優勝出来たでしょうにね♪
ヒバリは幼馴染みの男子高校生である“大楢優乃”の背中を見送り、なんで陸上部に入らなかったのだろうと頭を掻きながらうつむき加減で不思議に思ったりした。
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