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「会長居なかったぞ!」
「はやいね!」
小石をいくつもトイレに投げてあそんでいたヒバリのもとに、体感時間小石十個分で帰ってきた優乃は、またまたヒバリの真ん前で偉そうにふんぞり返っている。
「学校のどこにも居なかったの?」
「なんか用事があって先に急いで帰ったらしいぞ!あと、他の生徒会役員はだれも封筒の件はご存知なかったぞ!」
「あーそれで、生徒会長がこの子を手掛かりなしのズボラな状態で翔くんに渡した謎が解けたよ」
生徒会長ともあろう人が、封筒の中身の状態もろくに確認せず翔に手渡した理由がヒバリの中で解決した。
「まあそれなら、生徒会の学内リンクに入って会長に直接たずねた方が早いかも…」
スマホを手にしたヒバリが生徒会のページを開こうとしたとき、唐突に優乃がこんなことを言い出した。
「こうなっては致し方ない!我々は明日学校休みだから、この日の丸弁当屋に行ってみよう!!」
「は?我々は?」
伝統ある創業70年の中小金属加工会社の“日の丸金属”が、日の丸弁当ばっかりつくってそうな弁当屋された挙げ句、隣の県にまでワザワザ訪ねに行くとかほざき出したから、もう意味がわからない。
「え?僕も行くの?電車で?」
「そうだ!」
「僕お金ないけど?」
「安心しろ!オレもないから格安の鈍行一択だ!」
「単線の鈍行なら着くまで時間めっちゃかかるけど?」
「そこは車窓の旅で解決だ!旅行気分を満喫できるぞ!」
「駅から日の丸金属まで遠いから降りたらバスになるけど?」
「そこからは遠足気分を満喫だ!名所巡りしながらの歩きだぞ!ちなみにオヤツは三百円までだ!当然バナナはオヤツに入りません!」
「お昼ごはんはどうすんのさ?」
「もちろん弁当持参だ!水筒も忘れんなよ!そしてオレはもう今からワクテカがとまらないぞ!」
どうしよう、この人本気だ。
最善の解決策を取らず、遊び気分全開のプランを提示した優乃は、頭を抱え始めたヒバリに向かって『どうだ!スッゲ楽しそうだろう!』と、なにやら満面の笑みで同意を求めてくる。
優乃が言うには翔も一緒に行きたがったが、明日も生徒会の仕事があって同行出来ないためどうしようかと悩んでいたところ、自分が見聞きした内容をお土産代わりにすることでなんとか随行を諦めるよう説得したらしかった。
「それにさ、オレら最近ふたりで遊んでないだろ?ちょうどいい機会じゃん!遠出しようぜ!遠出!」
休みになれば翔との時間をなによりも大切にし優先していた優乃の、親友に対するせめてもの罪滅しのつもりだった。
「わかったよ。明日遊ぼうね♪」
こうして生徒会長から翔に依頼されたよくわからない内容の仕事は優乃の気遣いによって唐突に、男子高校生二人組みの気ままな日帰り旅行にジョブチェンジしてしまっていた。
ちなみに集合時間は駅前に朝の5:30となっていた。
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