東野君のほしいもの<番外編>

20/21

100人が本棚に入れています
本棚に追加
/540ページ
「東野君のほしいもの」 「……佐奈?」  彼女は睫を伏せるが、膝に乗せた手の平は熱くなっている。 「バレンタインのプレゼントに、東野君のほしいものをって考えたの。そうしたら、遼子さんが」  住宅街の道で話したことだ。緑が、何も買わなくていいと言ったとか。 「東野君のほしいものなんて、決まってるって」 「……」  耳までまっ赤に染めている。  そうか――  俺はすべて分かった。  彼女の様子が変だったのも、忘れたと思ったチョコレートの話を持ち出したのも、彼女らの名前をきっちり覚えていたことも、全部、どうしてなのか。  俺は、そんな彼女を見守りながら、ある答えを得ていた。  俺と佐奈は、一年の間にこれほどまでに密に重なり合い、互いを知った。だけど、それは馴れ合いじゃない。馴れ合ったなら、こんなぎこちなさなんて感じない。
/540ページ

最初のコメントを投稿しよう!

100人が本棚に入れています
本棚に追加