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杉並木の道や石段を経て戸隠神社に参拝し、鏡池まで散策した。散策と言うよりハイキングだったけれど、高原の空気が清々しいルートだった。
「まだ雪が残ってる」
鏡池の向こうに連なる戸隠連峰の岩肌に目を細め、東野君は感慨深げに呟いた。風があり、池の水面はさざ波だっていたけれど、山ならではの自然の美しさがあった。
「きれいだ……」
気がつくと、私を見つめていた。
今はラフな服装で、スーツ姿ではない彼なのに、なぜこんなにも大人びて映るのだろう。
東野君なのに、東野君じゃないみたいな――
「提案なんだけど」
「えっ!?」
ぼうっと見惚れていたから、びっくりした返事になってしまった。
「どうかしたの」
「ううん、なんでも……提案って?」
どぎまぎしながら訊くと、東野君は少し照れくさそうに答えた。
「いや、そろそろ東野君は卒業しないかってこと。今までも言おうと思ってたんだけど、俺と佐奈はもう先輩後輩でもないし、つまりね」
東野君を卒業する。
私は戸惑ったが、すぐに名前の呼び方であることを理解した。
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