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5秒までのきせき1
20歳の誕生日
「「兄貴!俺達と結婚して☆」」
「断る」
身内にプロポーズされた
1
「よぅ久しぶり~んで誕生日オメデト」
講義が終わり、ざわつく教室の中で友人に声をかけられた。年明け早々の講義というのは暦上での区切りと共に学生達の中でもある一つの起点になっているのを象徴しているかのごとく、まぁ要するに日々学生生活に意味を見いだせないでいる学生達もなんとなく大学に来ているわけだ。この講義に人が多いというのは非常に希有なことで、まるで学校のようではないか。と壱太はぼんやりと辺りを見渡していた。
「まさかとは思うがあえて言おう。俺の名前は小林陽一郎ピチピチの20歳お前の高校からの親友で苦楽を共にしてきた仲だ。お前の悩み事は真っ先に相談され信用されていると自他共に認めており、たかが2週間会わなかっただけで存在を忘れられてて…」「ありがとう」
「何が?」
「誕生日のやつ」
「おせーよ」
納得がいかないとばかりに小林が答えるとようやく壱太は目を細め苦笑した。その壱太の様子に小林も顔を崩し、いつものぬるい空気が空間を支配する。
壱太の周りは柔らかい空気に包まれている。
普段のバカ騒ぎに呼ばれることはめったに無く、無個性に整った顔立ちは逆に人目をひくことは無い。クラスメイトの名前を挙げていく際一番最後まで残るような典型的に地味な存在だった。しかし何故か中学の頃から、なんでもランキングの「相談したい人」そして「頭を撫でて欲しい人」部門では常にトップの座をキープし、相手が生徒であるか教師であるかすら問わずあらゆる人があらゆる形で彼に触れていき離れていく…10代にして「停留所」の異名を教師からいただいていた。ちなみにその教師はネーミングセンスが無かったと小林は思う。
「壱太次は講義ないべ?飯食おうや」
ノートやファイルの片付けに手間取る壱太を見ながら小林は続ける。
「んでプチ誕生日パーティーしよ。どっか空き教室探してさ。どうせ今年も家族にしか祝われてないんだろ?なんか奢ってやんよ」
壱太の誕生日は1月1日。これほどまでにめでたい日はないのにこれほどまで祝われ無い日もなかなか無いだろう。そしてこれほどまで覚えやすい誕生日も滅多に無いだろうにこれほどまで祝われ無い日も無い。基本的には年賀状がお誕生日カードになっており、時々思い出したかのように1月の後半に祝われたりしていた。なんか壱太らしいと良く言われるしなんとなく本人もそう思っている。しかしこうして小林や他数人の仲の良い友人達がささやかだが確実に祝ってくれる事が何より嬉しいと幸せを噛み締めることのできる、地味で平凡な、だからこそ愛される青年だった。
しかし
「あ…今日は厳しいかも。弟達が俺の誕生パーティーするってはりきっててさ」
心底申し訳なさそうに言う。
「おぉ!あのデカい弟君達かぁ。仲良しでいいじゃん。いってきなー」
少々カタコトではあったが小林が答え、共に教室を出る。
小林の右ポケットの中には今日あげる予定だった誕生日プレゼントがある。たいしたものでは無く…本当にたいしたもので無いのだしその場でひょいと渡しても良いのだが、なんとなくまた今度渡そうと思い結局タイミングを逃し渡せなくなったプレゼントがある。
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