盲目の青年との出会い

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 青年は、うつろな顔のまま、軽く頭を下げてきた。最近、ここ資材部に出入りするようになった、魔導品制作部の人物である。盲目らしく、それを補助するために、周囲への感知力を強化するための特別な眼鏡をかけていた。  真っ黒なさらさらの髪。これは、かなり魔力が強い証拠だ。十中八九、高位の貴族である。 「目が見えないのに、あんなことされて。怖かったでしょう? もう大丈夫ですよ。ちゃんと追い払いましたから」  本来は声をかけるなんて、恐れ多すぎてできないような相手だろう。けれど、あまりにも傷ついて見えた。どこか既視感がある。今朝鏡で見た、自分の顔と似ているのだ。  ルチルは、未だに震えたままの青年の手を、そっと包むように握った。  すると、青年は雷に打たれたかのように、驚愕の表情を浮かべる。何が起こったのか分からず、同じくびっくりして瞬きを繰り返すルチル。青年は、見えないはずの目を大きく見開き、ルチルをまっすぐ射抜くように見つめていた。そして―――― 「もっと、もっと触ってください!」  青年の手が、ルチルの腕に伸びる。 「ひっ!」  ルチルは、乙女らしからぬ間抜けな声をあげた。
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