12人が本棚に入れています
本棚に追加
貴族でも、その体面を保つためには金がかかるので、子女が働きに出るのは珍しいことではないらしい。きっとセレナの家もそういった事情があるのだろうが、彼女自身はどう見ても夜会でデビュタントを迎えたばかりのような若さ。すっかり大人社会に慣れきっているわけではないはずなのだ。なのに、どこか物腰にこなれ感がある。さらには、一度口を開くとルチルよりも大人びているので、時々どちらが先輩なのか分からなくなる程だ。
だが、そんなセレナの立ち回りに嫌味な感じは無い。ルチルにとっては、すっかり気の合う同僚、否、姉御的な存在となっていた。
「それにしても、いつかどこかの殿方から愛されたいと思ってるのに、異性に手を触れられるだけで逃げるって、ルチル様は本当に面白いわ」
ころころと笑うセレナを、ルチルは軽く睨んだ。彼女は、ルチルの心に秘めた乙女な願いを知っている数少ない人間なのだ。
「そこまで硬派じゃ、さすがに誰とも何も進展しませんわよ?」
そういうセレナはどうなのだ、という質問を飲み込みつつ、ルチルは口先を尖らせる。
「分かってるわ、そんなこと」
最初のコメントを投稿しよう!