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三十路を前にして、ルチルは男性経験がない。一般的に言う「交際する」ということをしたことがない。仕事ではたくさんの老若男女と関わっているが、それはまた別の話だ。一歩踏み込んだ関係というのは、想像するだけでも取り乱してしまいそうになる。詰まるところ、女としてかなり拗らせていた。
「じゃ、願い事は諦めますの?」
いや、諦めきれない。しかし、そもそもルチルは、自由に恋愛できるようなご身分ではないのだ。それを知っているのに、唆してくるセレナが少し恨めしい。
「愛されたいって、受け身ばかりなのもいかがなものかしら? 相手がどう思うかではなくて、ルチル様がどう感じるかが大切なのではなくて? 待つばかりではなくて、愛は与えることで、何かが得られることもあるのよ」
さてはセレナ、ルチルの知らないところで、誰か良い人がいるのにちがいない。身分も外見も若さも負けているのだから、張り合うだけ無駄なのに、なぜかハンカチを歯噛みしたい気分になってしまった。
「きっと、皆は知らないでしょうね。あの『蔵の女神』が、こんな風に悩んでるなんて」
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