食堂で愚痴

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 裏の通り名。ルチルも薄々知っていたことだが、面と向かって言われると、実情との落差に頭がくらくらしてしまう。 「皆、一度目を検査した方がいいんじゃないかしら。私はこんな見た目だし、庶民だし。しかも、男爵に目をつけられてる」 「そんなステータスのことではないの。ルチル様はいつも、様々な商談を上手く取りまとめてくれる。知識も豊富だし、とても誠実。『蔵』に出入りしている誰もが、その仕事ぶりを信頼しているわ。たぶん、貴族特有のしがらみや損得勘定みたいなのが無いのも、清々しいのよね。それに何より、とても優しい女性だわ」  ここまで褒めちぎられると、ルチルも悪い気はしない。実際、ここまでになるには、かなりの努力が必要だった。  『蔵』の仕事は、石の取引や保管だけではない。その他の品目にも詳しくならなければならず、初めの五年は図書館や他部署にも通い詰めて、かなり勉強した。それがようやく実を結ぶようになって、今がある。  けれど、セレナなんて、ルチルのようながむしゃらな努力を他人に見せつけることもなく、何事もそつなくこなすのだ。
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