食堂で愚痴

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 ルチルは、今日何度目かのため息を漏らす。セレナは少し肩をすくめると、自らの器から肉を一欠片掬って、ルチルの皿へ入れた。 「そんな顔なさらないで? ほら、この前だって……あ、噂をすれば!」  ルチルは振り向いて、セレナの視線の先を辿った。職場の後輩、ルビだ。息を切らしながらルチル達の元へやってくる。 「ルチル様、お食事中にすみません!」 「どうしたの?」  ルビは、まだ十八歳の少年だ。今年から資材部で働いている子爵家の三男である。庇護欲をそそられるような、ミルクティー色のくるくる巻いた髪が愛らしい。 「実は、またあの商人がやってきて」 「あぁ、あの商人」  ルチルの顔は、瞬時に強張ってしまった。  実は、その商人、バンデットは、両親在りし日からの因縁の相手なのである。
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