悪徳商人来たる

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 仕方なく、ルチルは王都の外れにあった実家の屋敷を手放し、両親が家で保管していた希少な石を王城の資材部へ売ることで金策する。それでも結局足りなくて、モリオンに援助してもらって完済した。  身内を亡くしただけでも大変だったのに、さらにルチルを追い詰めた悪徳商人。それが、今も問題を起こしているバンデットなのだ。  確か、彼が前回やってきたのは、ちょうど一週間前のことだった。たまたま対応したのがルチルで、相手は顔見知りにも関わらず、初対面のような態度。ルチルは思うところがありつつも、仕事に私情は挟むまいと我慢して対応していたが、相手は完全に舐めきった言動ばかりだった。 「夜会でもお見かけしたことがありませんが、どちらのお嬢さんですか? あ、もうお嬢さんなんて年齢でもありませんでしたね、これは失礼を」 「最近、貴族会でも話題にあがっている噂なのですが……あ、ご存知なさそうですね?」  ルチルが庶民だと分かった上での見下し方で、それは到底王城には似つかわしくない下品さだった。年齢のことを突かれた時なんて、うっかり手が出そうになったが、ぐっと堪える。
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