出勤前

2/4
前へ
/81ページ
次へ
 ルチルは、王城に勤める文官である。埃っぽい部署だが、それでも働いているのは身元がはっきりしている貴族ばかり。しかし、ルチルの出自は庶民であり、とりわけ美人というわけでもない。となると、せめてもの悪足搔きとして、「雰囲気」美人を目指し、清潔感だけは保ちたいところだ。 「あーもー、落ち込んでても仕方ない。 今日も希少な素材が私を待ってるぞ。仕事だ、仕事!」  パンパンと頬を叩くと、自然と気合が入る。寝間着を脱ぎ捨てて、壁際に架けていた紺色のワンピースを手に取った。それに合わせたメイクと髪型を考えつつ、靴と小物も選ぶ。コーディネートさえまともであれば、きっと多少は見れたものに化けられるはずだ。  ルチル、二十九歳。十七歳の時に商人であった両親を事故で亡くしてからというもの、遺された家の商品を王宮へ押し売りした縁で、今の仕事にありついている。
/81ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加