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けれど、ルチルが親を亡くして独りぼっちになった時も、王宮で働き始めてすぐに貴族達から虐められて心が折れそうになった時も、石は何の奇跡も起こしてくれなかった。
ルチルは、心に秘めた乙女の祈りを石に捧げる。毎朝の儀式だ。夢を見るだけならば、誰にも迷惑をかけない。こんなこと、建設的でないことは分かりきっているが、誰かに愛されたいという願いだけは諦めきれなかった。
「そろそろ、あなたも真面目に仕事しなさいよ。じゃないと、私、三十歳になったらすぐに捨てちゃうからね?」
物言わぬ石と朝から会話する、行き遅れの女。その絵面の不味さに気づかないのは、本人のみである。
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