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盲目の青年との出会い
ルチルの職場は、王城の資材部だ。
顔パスで、見上げる程に高い塀に囲まれた敷地内に入ると、広い緑の庭の中を抜けていく。神々しいばかりに白い天然石で築かれた城を横目に、奥へ奥へと進んでいくと、赤いレンガの建物が、整然といくつも立ち並ぶエリアに入った。ここは、王宮内で通称『蔵』と呼ばれる場所である。
「おはようございます」
仕事用の笑顔で挨拶すると、夜勤上がりらしい『蔵』の警備士達が慌てた様子で敬礼を返してくる。
「目が合った……今日の幸運は使い果たしたかもしれない」
「相変わらず、いい女だよな。やっぱり俺……」
「やめとけ、男爵に睨まれるぞ」
「女神は皆のものだ!」
「いや、正確には英雄伯爵のものだろ?」
ルチルは、背後で軽く騒ぎが起きているのにも気づかず、事務室へ入っていく。
「おはようございます」
「おはようさん」
ルチルよりも早くに出勤していたのは、ここ『蔵』の主、資材部長のモリオンだ。燃えるような赤い髪が特徴的な美丈夫である。
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