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モリオンは、ルチルに今日の予定を告げると、隣の商談室で待たせていたらしい取引先の元へ行ってしまった。
ルチルも、手早く自分の鞄を机の引き出しに片付ける。今朝は、昨夜のうちに納品されているはずの、新たな石の状態を見に行かねばならない。注文通りの品かどうか確認するのも、ルチルの仕事の一つなのだ。そして足取りも軽く、事務室を後にしようとしたその時だった。
「やめてください!」
内心、「またか」と思った。声のする方、窓の外に目をやる。
「やっぱり」
そこでは、仕立ての良い黒い制服に身を包んだ気弱そうな青年が、最近資材部に異動してきたばかりの少年達に囲まれて、暴行を受けていた。すぐそばでは、資材部副部長であり、ルチルの天敵でもあるキャスパー・ドラブラッド男爵が楽しげにほほ笑んでいる。
キャスパーは、以前いた財務部でトラブルを起こしたとかで、十年ぐらい前に資材部へ異動してきた男だ。歳は、ルチルよりもニ、三つしか違わないが、あちらの方が上である。もちろん役職も。だが、ルチルがモリオンに重宝されるのが気に入らないらしく、何かと難癖をつけて邪魔建てしてくるのだ。
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