傘と黒髪

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「みつけた」  そこに立っていたのは久遠だった。黒い髪がさらっと揺れて、軽快な足取りで僕のそばへやってくる。 「なんでここに」 「俺も秘密を知られたんだ。おあいこだよ」  ずうずうしく隣に座りこむと、にんまりと笑っていた。 「傘を忘れたんだ。少しくらい雨宿りに付き合ってくれよ」 「押しかけてきたのはそっちの方だけど」 「いいからいいから」  久遠はずいぶんと機嫌がよさそうだ。 「雨は、都合がいい」  歌うように囁く。 「あの人は雨を嫌がるから、会わなくて済む」  久遠はそう言うと、ちらりと僕の方を見た。どうやら僕が知りたがっていることを察していたようだ。 「質問」 「なんなりと」 「どういう関係なの?」  彼は、ふふ、と笑って目を伏せた。 「商売相手」 「抽象的すぎる」 「わかってるくせに」  僕は苦笑した。予想は外れていなかった。 「理由を聞いても?」 「複雑な家庭事情ってやつ。仕方ないから、やってるんだ。稼ぎはいいよ」  それは久遠の暗い部分だった。教室ではあんなにニコニコしていて、成績もいい彼の、誰も知らない一面。僕だけが知っている顔。  無意識に笑みがこぼれた。 「それより俺は、お前のことが気になるけど」  久遠は僕のことを見た。どきんと胸が高鳴る。綺麗な目だな、と思って見惚れそうだった。 「気になるって、好きってこと?」 「ふん、バカ」  それ以上は何も言わなかった。久遠は視線を逸らし、壁に背中を預けた。  激しい雨の打ち付ける音が、一瞬の静けさを支配した。  彼の横顔を盗み見ると、ほんの少しだけ瞳が濡れているようだった。 「優等生様の珍しい顔が見られて満足ですよ」  久遠は鼻で笑ったけれど、嫌な顔はしなかった。

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