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そもそも生活必需品といわれるもの以外、この1Kには物が欠けている。殺風景な部屋だ。決して広くはないのに、無駄に空いたスペースが部屋の大半を占めている。それを象徴づけるように、引っ越してきたまま開けていない段ボール箱が、床に転がっていた。たしか夏用の服が入っている。机の上に置いた花瓶だって、おじから譲り受けて以来一度も花を挿したことがない。電球を反射して、つまらない部屋の味気ない内装をガラスに写していた。いわば、いつでも部屋を出られるような状態だ。その予定があるわけでもないのに。同世代の女の子なら、好きなアーティストのポスターを壁に飾ったり、洒落た空気清浄機なんかを置いてみたりするのだろうか。少なくとも、今のこの部屋からは想像がつかない。
「……歯磨こう」
私は部屋を見るのをやめて洗面台へ向かう。なにを考えたところでの部屋が物寂しいのは変わりない。
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