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もう物件探しが目的なのかどうかまで怪しい。なにか悪の組織的なものの情報漏洩の片荷をかつがせられているのではないか、という疑念すら湧いてきた。この男は、さしずめ脅された下っ端。
「笹ちゃん、あの人すごいねー」
高崎さんが耳打ちで話しかけてくる。やはり誰の目から見ても、あの男は異様な雰囲気を放っているらしかった。
「昨日も来たんですよ。あんな感じで」
「次の客が来たら、早めに帰してくれよー」
中谷さんは一貫して、これだ。もう関わってこようともしない。
十一時には客が次第に増えてきたので、遠回しに帰るよう男に伝えると、また持ち帰ってもいいかと、聞いてきた。
「……どうぞ」
さっきよりもさらに低い声が出る。今回はまたお待ちしています、とは言わなかった。昨日より強く、もう来ないでくれと思いつつ細くひょろりと伸びた背中を見送った。
「なんなんだろうねぇ、あの人」
「困るね。こう忙しい時だと本当に」
「はい、正直」
「それにしてもこの辺に住んでるのかな、二日連続で朝一番で来るなんて」
「さぁ……でもそうなら別に家借りに来ないんじゃ」
「笹ちゃんのこと好きだったりして」
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