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最後に化粧をしたのは、高校を退学した日だったと思う。手続きとかの問題で学校に行かなければならなくて、それでもどうにかして逆らいたいと考えて真っ赤な口紅と厚手の化粧をしていった。怒鳴られるかと思ったら、この先のことを真剣に心配されたっけか。
化粧が無理ならせめて髪だけでも、と考えてお湯で流しやりながら櫛でといでみる。その間だけは、痛んだ髪もさらりと指が通った。ドライヤーで乾かした後は、すぐにまたバサバサの髪に戻ってしまったけれど。これも普段の朝なら出来ないこと。
ここまでやっても、まだ出社までは余裕があった。もう一度寝ようかとも考えたけれど、寝癖が付いたら、折角といだ髪が台無しだ。
ゆっくり歩いて行くことにして、着替えてから家を出た。
外は緑の匂いで溢れていた。余裕を持つのも、たまにはいいものだ。いつもは忙しく走っているから目につかないような、道端の小さな花に春を感じる。黒いコンクリートロードに、小さな彩りを与えていた。
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