吠えない犬

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まだ開店まで二十分あるというのにあの男は、律儀に店の前で待っていた。男は寒そうに両手に息を吹きかける。もう春がそこまで来ている、息はそこまでけぶらなかった。痩せている人は寒さに弱いという。コートの上からでも、男の骨ばった体がうかがえた。 ここはたかが町内の小さな不動産屋だ、都会のパンケーキ人気店ではない。わざわざ寒そうにしながら開店時に来なくたって、日の出る昼からでだって空いている。待ちが出ることなんて滅多にないのに。 私は逃げるように、勘付かれないように過ぎて店内に入った。 「おはようございます」 「おはよう。今日は早いね」 「あ、はい。珍しく早く起きられたので。それより……店の前に」 「うん、僕も思ってたところだよ……。もうかれこれ三十分はあそこにいるね。本当にどこ住んでいるんだろうねぇ彼」 「……とりあえず先に資料、準備しておきます」 入ってきたところで、まず資料を突き出して家に帰って見ろ! と門前払いにしてやる。そんな心持ちで私は資料棚を漁った。 九時になって、店を開けると男はもちろん一番乗りで店に入ってきた。 私は勢いその目の前に勢い出ていって、
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