98人が本棚に入れています
本棚に追加
まだ開店まで二十分あるというのにあの男は、律儀に店の前で待っていた。男は寒そうに両手に息を吹きかける。もう春がそこまで来ている、息はそこまでけぶらなかった。痩せている人は寒さに弱いという。コートの上からでも、男の骨ばった体がうかがえた。
ここはたかが町内の小さな不動産屋だ、都会のパンケーキ人気店ではない。わざわざ寒そうにしながら開店時に来なくたって、日の出る昼からでだって空いている。待ちが出ることなんて滅多にないのに。
私は逃げるように、勘付かれないように過ぎて店内に入った。
「おはようございます」
「おはよう。今日は早いね」
「あ、はい。珍しく早く起きられたので。それより……店の前に」
「うん、僕も思ってたところだよ……。もうかれこれ三十分はあそこにいるね。本当にどこ住んでいるんだろうねぇ彼」
「……とりあえず先に資料、準備しておきます」
入ってきたところで、まず資料を突き出して家に帰って見ろ! と門前払いにしてやる。そんな心持ちで私は資料棚を漁った。
九時になって、店を開けると男はもちろん一番乗りで店に入ってきた。
私は勢いその目の前に勢い出ていって、
最初のコメントを投稿しよう!