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「あの、これ! 今日の分の資料です。ご自宅のほうでご覧になってください」
二十分間苦心して集めた資料の束を突き出した。押しに弱そうな男だ。これで帰ってくれるかと思ったのだけど、
「あっ……えっと」反応がおかしい。
「……? すいません、今日はそれだけしかないのですが」
「いや……その……」
ぼそぼそとコートに口元を隠して男は喋る。なにか喋ったのは分かったが、全く内容は聞き取れない。
「なにかございますか」
「その、違います。今日はこれを──」
男はかばんから厚みのある紙の束を取り出すと、私に控えめに渡してくる。受け取るとずっしり重い。見ればそれは、一昨日昨日と男に渡していた資料だった。
ただ違うのは一面真っ黒に数字やら、文字やらが埋め尽くしていたこと。金額の右横に少し大きめに書かれた点数以外、小さな字はいくら目を凝らしてみても読めない。
「えーと……とりあえずこちらへどうぞ」
「……はい」
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