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最悪だった。もっとも迎えたくないと思っていた展開。内見となれば、少なくとも数時間はこの男と一緒にいなければならないことになる。本当の最後、中谷さんに助けを求めようとしたが、わざとらしく「資料、資料っと」とつぶやいて裏口に消えていった。
つい天井を見上げてしまう。そこでは店員と客の関係のことなんて完全に忘れていた。
「どうかされましたか」
「い、いえ。少し疲れているもので、すいません。内見の日時ですが、ご希望等ありますでしょうか。こちらは、今立て込んでいて明日以降なら可能なのですが」
「……明日の午前九時からでお願いできますか」
「はい……大丈夫ですよ。では同意書にサインしていただいて、こちら記入してもらえますか」
「……分かりました」
記入してもらった顧客情報からようやく男の名前を知った。新田明。名前と印象の不整合加減に皮肉だな、と思った。
職業は、CM等でも見るような大商社勤め。一応この町にも支社があったと思う。毎日朝からここに来るから、無職なのではと疑っていたがちゃんと働いていた。それも私には見上げることすら許されていない一流どころだ。
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