吠えない犬

36/58
前へ
/249ページ
次へ
「……そうなんですか、えっとそれは失礼しました。………重ねて失礼ですがご年齢は」 「十七ですけど」 「……申し訳ありませんでした」 「大丈夫です」 男は首をすくめるように小さく頭を下げ続ける。 別にこれくらいのことは謝られるようなことだとは、思っていない。高校を中退する人なんか早々いないから、私がもの珍しいことはとっくに分かっている。それが世間様からおかしな目で見られることも同上だ。高校をやめて、働き先を探していた時に痛いほど理解させられた。 「あの、じゃあ……いいです」 男の声が小さく尻すぼみになる。一転、今度は落ち込んだらしい。こうまで分かりやすいと、なにもフォローしないわけにはいかなくなった。 「……でも、ただ測るくらいなら出来るかもしれません」 「あ……ありがとうございます。では、お願いできますか」 「はい」 これまでの内見とは全てが違っていた。途中でなにをしているんだろうとも思ったが、手伝うと言い出した手前自分からもういいですか、とは言い出せなかった。風呂場が終わると今度は洋室に移ってまた測り始めて、そのまま十二時過ぎ。
/249ページ

最初のコメントを投稿しよう!

98人が本棚に入れています
本棚に追加