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初秋の満月の夜空の下、銀色の刺繍が一面に入ったショールを肩にゆるく巻いたその女は、数メートル離れた場所で白人の男から突きつけられた拳銃の銃口を全く怯えた様子もなく見つめ返していた。
男は外国語で何かをしきりに女に向かってまくし立てていたが、女は意に介する様子を見せず、ワンピースの肩のショールの端を指で弾いた。
そのショールはひとりでに宙に舞い、目にも止まらぬ速さで男の体の周りを取り囲むように漂った。男が腕を振って力任せにその布を払いのけようとした時、青白い電撃がショール全体から男に向かって走り、男は鈍い悲鳴を上げてそのまま前のめりに地面に崩れ落ちた。
女は息絶えた男の姿を無表情に見下ろしながら、宙を飛んで戻って来たショールを再び肩にかけた。
そして女は煌々と輝く満月を見上げながら、口元にかすかな笑みを浮かべて独り言を言った。
「名残り惜しいけど、どうやら、お迎えが来てくれたようね」
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