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翌日、宮下が公安機動捜査隊に出勤すると、情報分析担当の後輩に呼び止められた。入庁してまだ2年目のその丹波という若い男は、宮下を自分のデスクへ手招きした。
「先輩から頼まれていた防犯カメラの顔認証の結果が出ましたよ」
手近にある空いた椅子を引き寄せて、宮下を隣に座らせて、丹波はパソコンの画面に画像フォルダーを表示した。
「あの杉本マリヤという女性ですが、怪しい場所に出入りしている様子は見つかりませんでした。それどころか、意外な場所にいましたよ」
画面に映し出されたのは、病院の一室だった。医師、看護師の控室らしき場所で半透明の防護ガウンを脱いでいる別の医師たちのすぐ側に、マリヤが医師の服装で映っている。
「彼女は医師だったの?」
そう訊く宮下に丹波は別の文字ファイルのフォルダーを開きながら答えた。
「医師免許の登録名簿に、その女性の名前があります。ただ、医師としての活動記録は見当たりません」
「これはどこの病院?」
「政府がオリンピック会場跡地に一時的に設置していた新型コロナウイルス軽症者用の臨時病棟です。ほら、野戦病院なんて揶揄されてたのがあったでしょ」
「意外と言えば意外ね。でも今回の事件と関係あるかしら?」
「それがあるんですね。患者の脱走に備えて監視カメラを所轄の警察が設置してたんですが、外部からの侵入者があったんです。それが、この男」
次の画像に映っていたのは、奥多摩で感電死した、あのロシア人だった。
「ガイシャが同じ施設に? 患者ではなかったの?」
「そこは確認しました。この臨時病棟に外国人が入っていた記録はありません。入院患者以外は家族といえども立ち入り禁止でしたから、不法侵入以外あり得ませんね。当時の関係者にも確認済みです」
「これで二人の間に接点が出来た。ちょっと電話借りるわよ」
宮下は内線電話で隊長と話し、丹波を同行させる許可を取った。丹波に出かける用意をさせるよう言い、今度は自分のスマホを取り出す。丹波がいぶかしそうに訊く。
「同行するのは光栄ですが、どこへ行くんです?」
宮下はスマホの通話ボタンをクリックしながら答えた。
「帝都理科大学へ。あそこの画像映像データベースと、うちのカメラ記録の顔認証システムを連結させて欲しいの。これは私ひとりじゃできないからね」
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