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「げ、雨降ってきた…」
思わずため息を深く吐く。
ここ最近はピーカンの晴天だったくせに。暑苦しくて鬱陶しかったけれど、こんな雨は降ってほしくなかった。
遠くからやってきた夏特有のゲリラ豪雨が雷と一緒になって空をかき乱す。足元で大粒のしずくがはねた。
いくらゲリラと言っても今降ってきたばかりの雨だとすぐには止まないだろう。時間をつぶそうにも仲のいい友人たちはとっくに学校を出ている。
(もう面倒だし車で迎えに来てもらおう)
もう一度ため息を吐いて携帯を取り出しアプリを開く。
屋根を打つ雨粒がうるさくなってきた。
「憂鬱だ…」
目の前でキャーキャー叫びながら数人の女子生徒が走り抜け、カッパも羽織らずに制服のままの男子が自転車をこいでいく。
自分と同じように駐輪場に立ちっぱなしの生徒もいるがその近くのどの自転車にもカッパが入っている。きっと大雨のなか、頑張って家へ帰るんだろう。
手元の携帯をいじり始めて数分、母から返事が帰ってきた。
”お盆の準備があるから頑張って帰ってきなさい”
「まーじかぁ」
そういえば確かにお盆が近かった気がする。部活の大会が近くてすっかり忘れていた。夏休みに入って日にちの感覚があやふやになっていたのも理由の一つかもしれない。
携帯の電源を落として空を見る。まだまだ雷も雨も元気いっぱいだ。自分の気持ちと正反対な灰色の空を恨みを込めてにらんだ。
「……?なにあれ」
ふと、視界の隅にかすめた小さな光。雲の中を飛ぶ飛行機か何かだろうか。
目を凝らしてじっと見つめた瞬間。
大きな稲妻が走った。
「ヒッ!!」
ドゴンッと大きく空気を揺らすそれは自分の目の前で光を散らす。
足元に落ちた光の柱が一層まばゆく輝いた。
(雷って、光の後に音がくるんじゃなかったっけ…?)
浮かんだ疑問は目の前を埋め尽くす光の中に埋もれていった。
「…い、お…い」
誰かの声が聞こえる。遠くに光が見える。おかしい、まだ雨は降ってるはずなのに。
「おーい、大丈夫かい?」
ぱち、と目が開く。目の前は一面水色だった。
「お?起きたか」
「……っは?!」
一気に覚醒してがばっと起き上がる。
「良かった。気づいたらここにきみが倒れていたから驚いたよ。それにしてもなかなか珍しい姿してるね、きみ」
「どこから来たんだい?」
そんな声はもう耳には届いていなかった。
一面に広がる水色と灰色の世界。
雨のにおいが広がるその世界に目が離せないでいた。
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