雨の世界

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 「それで、雨京ではどうやって雨を作ってるの?」  「せっかくだし、実際に見てみるかい?」  「え、いいの?!」  「もちろんだとも。さあ、おいで」  秋雨に連れられ雲の道を歩く。周りを見ると秋雨と同じ私の腰ほどの大きさの小人たちがちんまりとした家の周りをちょこちょこ歩き回っている。微笑ましいと思って見ていると、秋雨の仲間たちが物珍しそうに自分を見つめ返していた。なんとなく恥ずかしくなって、秋雨に話題を振る。  「あ、あのさ」  「ん、どうした?」  「そのぺ、ペイント?右のほっぺにあるやつ。それってなに?」  「右頬の?…ああ、これか」  秋雨は右頬の青いしずく型のペイントにそっと触れた。  「これはな、俺たちの役割を表してるのさ。空を晴れにするなら太陽のマーク、雨を降らせるなら雨のマークっていう風にな」  「へぇ、そうなんだ」  初めて見た時から目を引いた、青いしずく。なんだと思っていたけど役割を表していたのか。一目で役割が分かるから楽でいいな、と思う。きっと雪だったら白い雪の結晶だろう。台風なんかはやってくる時期は限定されているから人数が少なかったりするんだろうか。マークがぐるぐるだったらちょっと面白いな。  「じゃあ、秋雨の話してる言葉って日本語だよね?どうして日本語が使われてるの?」  「ああ。雨京をはじめとした上の世界は下の世界とつながっているからな。流れてくるんだよ」  「流れてくる?」  秋雨の言葉に思わず首をかしげた。  「流れてくるのはほとんど言葉だな。その言葉を俺たちは使ってるんだ」  「もしかして流行語とかも?」  「もちろんさ。ちょっと前なんか上の世界じゃ流行ってもいないのに”そーしゃるでぃすたんす”とかいってちょっとばかし距離とって生活してたからな」  「うーわマジか」  「まじだぞ」  秋雨の少し拙いカタカナの言い方にクスリと笑みがこぼれた。秋雨も拙いことは承知しているのか少し耳が赤い。その姿が余計に微笑ましい。  「娯楽は?ゲームとかもあるの?」  「知識としちゃ持ってるがホンモノはないからな。いまだにちびっ子の遊びはグリコだとかじゃんけんだよ。ちょっと大きくなればすごろくとかカードゲームは紙に書いて遊んでるけどな」  「ちびっ子って秋雨だって小さいじゃん」  「ちびっ子はもっとチビだ。俺くらいのが大人だよ」  「そうなんだ」  自分の前を歩く秋雨の大きさは子供サイズだ。そんな秋雨が大人の部類なら子供はどれだけ小さいんだろう。  「んーとじゃあ、秋雨たちって自分たちのことどうやって呼んでるの?」  「ん?俺たちのことか?」  「そう。私たちは自分たちのこと人間って呼んでるけど、秋雨たちはどう呼んでるのかなって」  「そうかぁ…そうだなぁ…」  もしかしたら秋雨たちにはそういう概念からないのだろうか。うんうんと考えている秋雨を見て、気まずい雰囲気を紛らわすためだったはずなのにまた気まずくなってしまった。  「…ああ!思い出した!”雨の民”だ」  「結構単純なんだね」  「単純な方が覚えやすいし言いやすいだろう?人間だって案外単純な理由でつけられてるかもしれないぞ?」  「た、確かに…」  人間がどうかは知らないが、動物の由来なんかはどう考えても”動”く”物”体だからだろう。改めて名前の由来を考えてみれば案外どれも単純なものかもしれない。  そうこうしている内に着いたようで秋雨の足が止まる。  自分も立ち止まって、正面を見てみれば自分よりも少し高い真っ白な塔が立っていた。秋雨たち雨の民からすれば十分に大きい自分よりもさらに高いこの塔はどう見えているんだろう。  「さて、雨の作り方を説明しよう。まぁ、ぶっちゃけて言えばお前さんの言った作り方と大差ないんだがな」  「はい?」  「つまり、雨は水蒸気から作られるという事さ」  まさかの言葉に呆気に取られていると、塔の向こう側から知らない声が聞こえた。  ひょっこりと塔の裏から顔をのぞかせたのは秋雨よりも青い髪を高く結い、同じように右頬に青いしずくのある小人。秋雨と同じくらいの大きさの雨の民だ。つまりは大人なんだろう。  「月時雨(つきしぐれ)」  「や、秋雨。見慣れないやつを連れ歩いていると周りで騒がれていたよ?」  片手を上げた月時雨に応えるように秋雨も片手を上げる。  「まあな。どうやら迷い()らしくてな。ああそうだ、あやか。こいつは月時雨。俺の腐れ縁だ」  「えっと、どうも。早川綾香です。よ、よろしく、月時雨、さん?」  「さん付けなんてよしてくれ。秋雨が呼び捨てならこちらも呼び捨てで構わないよ」
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