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司の酔いが急速に醒めていくのが手に取るようにわかる。
「タッキーどういうこと?」
「や。別に。ちょっと思っただけだし」
「ん~…」
しばしの沈黙。
「いるよ」
ポツリと呟いた。
嘘をつかれるかと思っていたがまぁ隠せるはずもないようなリアクションを取ってしまっただけに司は案外素直に認めた。滝谷も驚きつつも話を聞く。
「…」
「…」
「…」
「…え、終わり?」
「ん?終わりだけど」
「えっと…なんつーか、その子の事もう少し話したり、とか」
「別に言うことないし」
強い拒絶。滝谷にとって司からそのような態度をされるのは初めての経験であり、戸惑いを隠せない。いつもなら話を区切るが滝谷は続けた。
「告らねーの?」
「無理」
「彼氏持ち?人妻?幼女?」
「なんでだよ。どれでもねーけど告らね」
「なんで」
「なんでも」
「なんで」
「滝谷しつこーい」
「…なんで」
正直自分でもしつこいと思った。いつも比較的あっさりとした人間関係を築いているし、司とは特に付かず離れずのポジションを維持している。なぜか自分でコントロールがきかないのだ。おそらく酔っていたのだろう。いつもは絶対に思わないような感覚を抱いている。
寂しい
司も意外そうに見やりながら、ふいとテレビに目を向け話題終了を体で告げる。テレビから漏れるはしゃいだ、しかしどこか冷めた空気はまるで今のこの2人の関係の対角線上を歩いているようでしかしとても近いような感覚も覚える。滝谷もじっとテレビを見続けた。
互いに酔いも醒め、流れる空気に耐えきれず滝谷が一時退散しようと腰を上げた。
「滝谷」
「ん?」
「だから、滝谷」
「だから何だよ」
「俺の好きな人」
「…あっそ」
「あっそってアンタ」
その発言を黙秘とみなし帰る支度をする。友情なんて所詮こんなものなのだ。好きな人一人教えてもらえない。というか自分は友人として認めてもらっているのかさえ怪しい。普段は自身にすらひた隠ししている司への劣等感がわけもなく支配する。
今までに味わったことの無いような惨めな気持ちを抱きコートを羽織る。
「滝谷~」
「ハイハイわかったから。悪かったよ」
「あ~またなんか被害妄想してんな」
「してねー」
「してるっての。俺じゃダメ?顔よし頭よし金持ち」「で浮気症」
「滝谷なら浮気しない」
「もういい」
「良くない」
強い返事に違和感を覚える。履きかけの靴を玄関に置き振り向く。司は相変わらずテレビの方へ顔を向けているが、目は画面を追っていない。彼の神経がこっちへ向いているのがわかった。
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